あきまへん |
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●あきまへん 小説とはうんこである。 これは皆さんもご存知の日本が世界に誇る大哲学者にして大作家、豊臣家康が残した格言だ。 この格言に則って言えば、クソみたいな小説とはつまりクソみたいなうんこである。 何たること、うんこではないか! そのように憤慨する読者諸氏もおられることだろう。 だがあえて言おう。 そうだようんこだよ。と! かの大哲学者にして大作家にして物理学者である豊臣家光の格言はしかし、真理であろう。 なぜならば小説とは排泄物だからである。 そう、おケツを踏ん張らせるようにして脳みそを力ませて、菊からニュルっと夏のところてんムーヴィングをキメて見せるように両手の指先から迸るエッセンスをちゅるりといくのが小説である。 もはや論を待つまでもなく、排泄物ではないか! そう、もはや皆がうなずくのを待つまでもなく小説とはうんこであり、うんことは排泄物であり、排泄物とは小説なのだ。 この三位一体はもはや父と子と聖霊からなる西欧神体三位一体と根拠を同じくする、いわば黄金律。 この神聖不可侵にして絶対防衛ラインたる、王権神授説にも等しい小説うんこ説は今後、世界の統一真理として燦然と輝くことは請け合いであろう。 そうするとこの説を提唱した豊臣吉宗氏に対してはノーベル賞も辞さない構えであることは分かっていただけると思う。 昨今急増している日本人ノーベル賞受賞者の中でも、氏ほどセンセーショナルな受賞を果たす者もいないはずだ。 ここまで前振り。 「先生、先生ィィィィィィィィィ!」 さて、そんな我らが伝説の大作家にしてニーチェもはだしでドロップキックをかまし、マルクスとてフンドシ姿でモンゴリアンチョップをかましてくるとすら言われる豊臣家綱氏の家の前に、今日もまた原稿を催促すべく出版社の編集者及川光秀(通称:ミッチー)がやってきていた。 このミッチー、幼少のころから優れたIQを発揮して、周囲からは「ミッチーミチミチうんこたれ」と称されるくらいの傑物である。その流れからもこの出版社(仮にSYU-EI社としておく)の編集者として豊臣氏とのつながりが深いことも理解できると思う。 では、そんなミッチーの原稿取り立ての一部始終をご覧いただこう。 「先生、先生! 原稿、原稿、現行の原稿どうなってうわああああああああああああああ原稿うううう、うわあああああああああ!(ブリブリブリブリブリョリョリョリョミチミチミチミチミチミチヌチョオ!)」 なんと誠実さと勤勉さに溢れる業務態度であろうか。 すでに閉ざされて三年近くが経過している豊臣氏の自宅玄関の前に立って、ミッチーが玄関を叩きながら蹴りつけて肩からブチ当たってなおのこと強固なる玄関を前に尻のあたりがモコモコ肥大化して辺り一帯に異臭を放つ辺り、彼の原稿に対する必死さ、編集としての勤務態度の良好さがうかがい知れるというものだろう。 ああしかし、作家と担当編集とはいわば水と油。善と悪。昼と夜。回るお寿司と回らないお寿司。 決して相容れることのない、世界を二分する白と黒。二元論の根幹をなす日米不平等条約にも等しいふたつの存在。 日本政府か言うだろう、「遺憾です」と。 だが政府が遺憾の意を表明したとて豊臣家定氏の家の玄関は開かぬ。開かぬのだ。 「先生、先生、先生ィィィィィィィィィィ! いつになったら原稿できるんですかぁぁぁぁぁぁぁ! い、印刷所印刷所印刷所印刷所がぁぁぁぁぁぁぁぁ! 待たせていた印刷所がおととい倒産したんですよおおおおおおおおおおおお!(ブリブリブリブリミチミチミチミチジョバ~~~~~~~~~!)」 なんたること。 印刷所の倒産という危機はまさに未曽有の窮地と言っても差し支えないだろう。 雑誌を販売するには印刷が必要である。そして印刷をするには印刷所が必要なのだ。 いさや、極論、印刷所がなくてもコンビニがあればコピー本という形で雑誌を作ることはできるだろう。手作業で。 しかし全国3億1000万3部という驚異的な売り上げを誇るミッチーの会社の雑誌のすべてがコピー本で販売したとなれば、一体どのような風評が巻き起こることだろうか。 「新刊、あります」 などと、夏の聖戦ででも売り出すかのようなその口上。もはやツイ●ター上でも「SYU-EI社、新刊あります」という風評被害と共に炎上焼却物理粉砕乱数調整の末にドゥエドゥエせざるを得ない事態に発展するだろう。 そう、つまりはミッチーの双肩には日本出版界の未来がかかっているということだ。 がんばれミッチー、尻のあたりがモワモワしつつも君の戦いに日本文壇の未来がかかっているのだ。 「うおあああああああ! 先生、先生ィィィィィィ! そんなに夏のお中元に時限式炸裂爆弾を送り付けたのが気に食わなかったんですか! だって先生がお歳暮にトカゲのしっぽを! まだヒクヒクしてるトカゲのしっぽの詰め合わせを送ってくれたからそのお礼にと思ってェェェェェェ! よかれと思ってェェェェェェェェェェェェ!(メチョメチョメチョブリブリブリブリゲリョリョリョリョリョメチョオ!)」 決した開かぬ玄関を前に、ミッチーは打ちひしがれる。 玄関には血の手形がいくつもベッタリとはりついていた。 これこそが彼の奮闘と死闘、激闘の証である。ミッチーの拳はすでに試合に出ることもままならぬ。 ずっと、ずっとこの玄関を叩き続けてきた彼の拳はもはやボクサーとしては死んでいる。終わっているのだ。 ミッチーはボクサー生命を投げ出してまで、原稿を取り立てようというのだ! そんなミッチーは、ボクシングなど一度もしたことは、ない! 「フ、愚かな担当者だ」 「な、なに……!」 それはちょうどお昼の13時、ミッチーが玄関を5時間ほど叩き続けながらお昼の愛妻弁当を食べ終えたころのことであった。 突如として声が聞こえてきた。振り返ればヤツがいた。 豊臣氏宅の向かいの田中さんちの屋根の上、日光を背負ったヤツことは―― 「まだ日も上り切っていない朝早くから戸締りしている先生宅に押し込みをかけて玄関を叩き続ける――、人それを、訪問という!」 「おまえは、何ヤツ!」 「貴様に名乗る名前はない! 吉田だ!」 吉田だった! 彼こそはミッチーのライバル担当者、宿命の怨敵、決して避けることのできない百年来の仇にして飲み友達、吉田! 「KO-DAN社の吉田かぁ! 何しに来た!(ブリブリブリブリブリブリブリ!)」 「貴様に語ることなど何もない! 原稿の取り立てだ!(ブチョチョチョチョチョチョブリョ!)」 「KO-DAN社……! 豊臣先生ヤロウの作品締め切りが半年前に過ぎたと聞いていたが、そろそろ取り立てに来ると思っていたぜ!」 「クッフッフッフッフッフ、残念だったなぁ、ミッチー。俺が動いたからにはもはや原稿はKO-DAN社のものよ! さぁ、その場から疾く失せるがいい。その玄関を叩くのは、今日から俺の仕事だァァァァァァァ!(ミチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチメチョアア!)」 「やらせるものか……。この玄関を叩くのは僕の使命だ、僕の運命だ……。この3年間、ずっとずっとそうしてきたんだ! この玄関を叩くために僕は前の彼女と別れて今の妻と結婚した……、婚活パーティーだった! 結婚の条件は、『漏らしても気にしない人』だ! 今の妻はそれを快諾してくれた、いい妻だと思わないか!?」 「……チッ、さすがは愛妻家のミッチー。いついかなるときもノロケを忘れない男! 毎年の結婚記念日と奥さんの誕生日に家を買ってやってるという噂はどうやらデマではないようだな!」 「それはデマだ!」 「なるほど……、俺は情報に踊らされていたというわけか。だがさせん、させんぞ! これ以上、おまえがその玄関を叩くのを俺は決して許容せんぞ! KO-DAN社のために……! そしてそれ以上、おまえのためにだ!」 屋根の上より鮮やかなるポーズを決めて見せて、吉田がミッチーに指を突きつけた。 その指先を見て、ミッチーは驚愕する。 こいつ、爪が研いである――! ミッチーは爪を切ったあとで爪を研がない。なんとなく爪切りに負けたような気になるからだ。 しかし吉田はどうだ。見事に爪が研いであるではないか。しかも、角っこのところが尖らせてある。 考えるまでもない、吉田の爪は暗器としての役割を持っているのだ。 社会人とは戦士である。ビジネス業界という大惨事世界大戦の戦場において、暗器術が有効なのはいうまでもないだろう。 「吉田、貴様……! 僕に何が言いたい!」 「いいかミッチー、よく聞くがいい……!」 屋根の上から、吉田が告げる。彼はこう見えて、高所恐怖症なので屋根の上から降りられない。 そんな彼が、ミッチーの命を懸けてメッセージを伝えるのだ。 「豊臣先生はもう、3年前に引っ越した! うちの隣になァ!」 「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?(ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリヌチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョブリョアアアアアアアアアアア! ジワァ……)」 あまりの衝撃に白目を剥き、あごの骨を外し、全身を引きつらせて痙攣しながら尻のあたりをメコメコさせるミッチー。 彼の姿を見ていられず、吉田はそっと目をそらした。地面が見えた。高かった。今日俺は死ぬんだと確信した。 「じ、じゃあ、僕が取り立てようとしていた原稿は……?」 「3年前に、入稿済みだ……」 「――――」 涙と共に吉田がさらなる残酷なる現実を突きつけてきた。 その瞬間、ミッチーのすべてが止まった。 意識も、時間も、肉体も、血流も、心臓も、何もかもが、括約筋以外の何もかもが、止まってしまった。 「ぼ、僕は……」 これまで、いったい自分は何をしていたのか。目の前にある決して開かない玄関を叩くことこそが仕事だと思い続けてきた。 妻からも「ねぇ、原稿の催促の方が仕事なんじゃないの」とか言われたりもしたが、妻は専業主婦である。男の仕事の何たるかもわかっていないのだ。 そんな言葉は聞く耳を持つまでもなく、ウェイトトレーニングに努めてきた。必要なのは一撃の威力を高めること。そしてそれを長時間維持し続けることだ。玄関の強度はもはやウルツァイト窒化ホウ素もかくやというほどである。 それを叩き続けられる体力こそがこの仕事に求められる社会人としてのマナーに違いない。 そう思って、ずっとずっと背中のヒッティングマッスルを重点的に鍛え上げて、やっと鬼の貌めいてきたというのに――! 「もういい、ミッチー。もういいんだ!」 「あ、あ……」 ミッチーの目から涙がこぼれ落ちる。そして吉田はいよいよどう下りればいいか分からなくなっていた。 「うおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!(ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリョリョリョリョリョリョブチョチョチョチョチョチョチョビチビチビチビチビチビチ!)」 現実に心砕かれたミッチーが決してあかない玄関に渾身の右ストレートを打ち込んだ。 その威力たるやこの3年間で磨き上げた打撃の極致。玄関は吹き飛び家は消し飛び周辺一帯が衝撃波によって消滅してそこに巨大なクレーターが出来上がるほどだった。 吉田は思った。あ、降りれた、と。 そしてクレーターの真ん中で、余波によって服が破れて全裸になったミッチーはどこまでも広く大きな青い空を見上げて、小さくつぶやいた。 「おしりかゆい」 |
6496 2017年08月13日 16時19分58秒 公開 ■この作品の著作権は 6496 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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