異世界の門

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 いつものように、小説を読んでいるところで予鈴が鳴った。あと5分で午後の授業が始まる。それまでにキリのいいところまで読めるかな。今面白いところなんだけど。主人公がひょんなことから異世界の門をくぐり冒険するファンタジーだ。恋愛要素もあり、彼氏いない歴=年齢の私はのめり込むように読んでいる。そうこうするうち本鈴が鳴った。
 午後最初の授業は数学だった。数学はそんなに好きでもないので、弁当を食べた後の授業は眠い。先生も分かっているのか、たまたまなのか授業も半ばというところで雑談を始めた。
「今やった微分係数の定義、わかったかい?
「皆にとって数学って、異世界の科目に見えるかもしれないね。
「でもそれって当たり前なんだよ。
「微分積分なんていうのは、比較的最近現れた学問で、
「えーと何世紀なんだろ、多分17、8世紀くらい、ニュートン以前はなかったんだよ。
「ニュートンは、それまでの人類には異世界の学問を作り上げてしまったんだ。
「数学の歴史は二千年以上に及ぶわけだから、それくらい難しいってことだね。
「だから、授業を聞いてすぐにわからないからって心配する必要はないんだ。
「不思議なのは、やってるうちに慣れてくるんだよね。
「皆も異世界が現実世界に落ちてくるまで、よく練習して慣れてください。
「では次の練習1を、山村さん」
うわあたしかよ。いっぺんに目が覚めた。難しいんだったらもう少しできる子に当てればいいのに。
「先生わかりません」
先生は楽しそうに笑いながらいう。
「微分係数の定義のf(x)のかわりに、問題に書いてあるxの2乗を使うんや」
こういうとき何故かエセ関西弁になるんだよねこの先生。私がだまっていると、
「数学は手を動かすのが大事なんだ」
出た。口癖のように言うんだよねこれ。言われた通り手を動かしてみる素直な私。えっとf(a+h)は今の場合……
 時間が過ぎるのが長く感じられたが、多分5分も経っていないだろう。ノートにやってできたので黒板に書きにいく。書き終わると先生はすかさず丸をつけた。
「とりあえずこれができればよし。次いこっか」
 そんなこんなで授業が終わった。私は先生の雑談のことを考えた。ニュートンってりんごが木から落ちるのを見て何か思いついた人じゃなかったっけ? それって数学なの? 異世界が現実になるとか言ってたよね。ファンタジーですか? 文脈からすると、数学は異世界の学問にみえるかもしれないけど、現実の学問なんだから、やってればできるようになるってことかな。
 10分の休み時間は短い。あっという間に次の現代文の時間だ。今日は山月記の何回目かだ。私は国語は好きで、教科書に載っている小説は既に全部読んでしまっている。山月記は何が言いたいかよくわからなかった小説だ。授業でそれがわかるようになるといいんだけど。
「……ここで李徴が虎になったことがわかるんですが、何故虎になったと思いますか? はい山村さん」
うわまたあたしかよ。
「異世界の門を開いたのだと思います」
まわりからクスッと笑う声がする。先生は笑わなかった。
「では、何故異世界の門が開けたのだと思いますか?」
小説の内容を思い出しながら答える。
「えっと……詩ばかり作って、他の事をなにも顧みなかったから?」
「はい。教科書に沿ったいい答です。でも本当にそうなんでしょうか。今日はこの辺りについて考えてみましょう……」
色々な問いかけ、応答があった後、先生は締めくくった。
「結局虎になった原因は、”よくわからない”ということだと思います
「そういう不条理な世界に我々は生きている」
そこでチャイムが鳴った。
「おっと、では今日はここまで」
 この先生はチャイムが鳴ると尻切れトンボでも授業を終わらせちゃうんだよね。でも結構面白い授業だった。次は掃除か。毎日のことだけどせわしないよね。こんな平凡な毎日に、不条理に突然異世界への門が開くか。本当にそんなことがあったらなぁ。いや、でも虎になるっていうのはメタファーだよね。現実にも異世界の門が、ああ数学の先生もそんなこと言ってたんだっけ? 今日は異世界のことばかり考えていた気がするなぁ。
 掃除が終わって教室を出ると、同じクラスの鈴木君が待ち構えていたようにこちらを見ている。声を掛けられた。
「山村さん、話があるんだ。ちょっとそこまで来てくれない?」
え? え? もしかして告白ですか? 鈴木君ならタイプだし付き合ってみたい。これはちょっと私にも異世界きたかも。ドキドキしながらついていくと……

 世界は異世界に満ちている。
ミリン sUMDXI0q5s

2017年08月13日 10時54分40秒 公開
■この作品の著作権は ミリン sUMDXI0q5s さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:突然現れる鈴木君
◆作者コメント:国語の時間をもう少し練りたかったです

2017年08月28日 19時35分00秒
作者レス
2017年08月27日 22時43分58秒
0点
Re: 2017年08月28日 20時26分31秒
2017年08月27日 22時11分22秒
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2017年08月26日 17時56分45秒
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2017年08月26日 13時26分12秒
+10点
Re: 2017年08月28日 20時15分40秒
2017年08月26日 06時48分32秒
+10点
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2017年08月25日 20時47分11秒
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2017年08月20日 21時23分29秒
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2017年08月15日 15時15分58秒
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2017年08月14日 23時44分31秒
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