青い春の扉 |
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十六歳の夏、俺は思い切ってクラスの女の子に、告白をすることに決めた。理由はいたって簡単、何もない青春に刺激を加えるとすれば、俺自身が行動するしかないと言うことに気がついたからだ。俺は心の扉を開くと、学校の図書室にこもり、思いのたけをペンにぶつけた。 『知的な表情、長い髪、短いスカート。そこからすらりと伸びた足に、制服の上から透けて見えるブラジャーと、溢れんばかりのおっぱい。全てが俺の理想系。俺は、三葉よう子を愛しています。 性的な意味で愛しています。身体の異物が三葉を欲しがっているのです。染色体レベルの恋をして、一緒にベイビーを作りましょう。俺、マジで本気ですから』 俺は書き上げたラブレターを読み直して見た。自己採点では九十八点のできだ。百点に二点ばかり足りないのは、三葉に思いが届くかどうか分からない、俺のピュアなハートの分だ。俺は手紙を封筒に入れると、ひとつ呪文を唱えた。この恋はきっと上手くいく。 よっし! 俺は気合を入れると、三葉のいる弓道部の練習場へ向かった。三葉は弓道県大会上位入賞の腕を持つ文武両道の才女だ。だが俺の前では的の方になってもらう。 しかぁしそこへ運命の神が試練を与えてきた。弓道部の道場に向かう校舎の裏側で、三葉がブサイクヤンキーの岸本に絡まれていた。 岸本は昭和風味のオールドタイプのヤンキーだった。汚い茶髪のリーゼントに、ソバカスの残った顔、眉毛を細く切り、シンナー系の薬物のせいか、前歯が一本溶けていた。 俺はラブレターを守るように抱きしめると、建物の影に隠れ、二人の様子を眺めた。 あぁ、袴って良いな……。俺は弓道部の練習着に着替えた三葉の姿に感動した。和服は身体の凹凸を隠すデザインになっているはずだが、三葉の我がままボディは着物の様式美を遥かに凌駕していた。 俺が目の保養を楽しんでいたら、ブサイクヤンキーの岸本が三葉を口説き始めた。 「よぉ三葉、俺と付き合えよ」 「嫌よ。だってあなた臭いんだもん」 そうだ。そうだ。ブサイクヤンキーなんて存在自体が臭いもんだ。俺は心のなかで三葉に加勢する。 「てめぇ、少しばかりおっぱいがデカいからって調子に乗りやがって!」 ブサイクヤンキー岸本はニヤけ面を見せると、三葉のおっぱいをわし掴みにした。 「きゃぁ!」 悲鳴とともに頬を染めた三葉のビンタが、岸本の顔面を捉えた。とっさの攻撃に尻餅をついた岸本は、溶けた歯の隙間からピーピー音を出しながら、気色の悪い顔を見せた。 「へへへ、本当は揉まれて嬉しいんだろ?」 あ~、俺の三葉の、おっぱいが。俺はブサイクヤンキー岸本に怒りを覚えた。何とか三葉を助けてやりたい。だが俺には絶望的に喧嘩の才能が無かった。もとい子供の頃から保険体育以外の運動系の授業で、良い点をもらったことが一度もない。それでも俺は、三葉を助けてやりたいと思った。 その時、頭上から体を貫く雷が落ちた。愛が恐怖を超越したのだ。俺は勢いよく上着を脱ぎ捨てると、ズボン、ベルト、ブリーフ、全てを脱いで素っ裸になった。生まれたままの姿になった俺は、ラブレターにキスをすると、それを黄ばんだパンツの上に、そっと置いて微笑んだ。アディオス、俺の青春……。 俺は小さく呟くと、縮んだ息子を相棒に、三葉の前まで歩いて行った。 「なんだお前は」 岸本にそう言われ、俺は一世一代のはったりをかました。 「お前、知らないのか? 今日の午後、国会でこの国の人間は服を着ちゃいけないっていう法律が出来たんだぜ!」 俺はそのままアイコンタクトで三葉に語りかけた。俺を信じてくれ。それから、真顔で三葉の道着を脱がせた。上の袴、下の袴、上のブラジャー、下のパンティーの順番に。 ブサイクヤンキー岸本は鼻の穴から血を垂らしながら我に返った。 「そんな、法律あるわけねぇだろ!」 「新聞ぐらい読めよ!」 俺は気合一閃でブサイクヤンキーを押し切った。岸本は怯んだ様子で服を脱ぎだす。ズボンにTシャツ、そして、トランクス。 「俺だって新聞ぐらい読むさ……」 校舎の裏に裸の高校生が三人。俺はのまれてなるものかと、毅然とした態度で三葉の手を引いた。 「行こうか!」 俺たちはそのまま校庭に向かって歩き出した。この物語の着地点がどこへ向かうのか、俺は知らない。だけど俺は、三葉よう子を暴力から守ったことを誇りながら、一生、生きて行きたいと思う。 |
ラピ 2017年08月11日 02時12分18秒 公開 ■この作品の著作権は ラピ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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