オルフェウスと竜族の再生者 |
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※ この作品には、グロテスクなシーンが含まれています。 『プロローグ』 アレン・シュヴァンテは知っている。 蘇生魔術は人を生き返らせることを。 同時にそれが、決して平等でも慈愛に満ちたものではないことも知っている。 心肺停止から二十四時間と三十三分。 それが現行術式の蘇生限界時間だ。 その一線を越えない限り、蘇生魔術は死者を現世へと呼び戻す。 それはかつて、蘇生限界時間が三十分に満たなかった頃から見れば大躍進と言える。 だから誰もがこう言う。 昔から見れば、多くの命が救われるようになった。今は良い時代になった。幸せな世界になったのだと。 それは、間違いのないことだ。アレンだってそう思う。 けれど、アレンは知っている。 例えどんなに執行猶予が延びたとしても、決して救われない人間もいるのだということを。それはそういうものだということを、アレン・シュヴァンテは知っている。 「師匠、起きろよ師匠。なぁ、もう朝だって」 カーテンを開け放ち、師匠に雄鶏のごとく朝を告げる。それがアレンの日課だ。 それに対し彼女は、ベッドの上で身じろぎしながら「うーん、あと五分……」と呻くのが日課。ついでに掛布に申し訳程度に包まって、横向きで丸くなっているのも。 歳は三十近いはずなれど、そのくせは妙に子供っぽい。それは少し前に十九になったばかりのアレンから見ても、確実にそう思う。 「ったく、ずぼら師匠め……」 ゆるく波打つ金髪は、上等な織物のごとく光沢を放っている。整った目鼻立ちは時に女神のようだと呼ばれるぐらいで、じっと眺めていても飽きが来ない。かすかに開いた桃色の唇からは、寝息が漏れ。その拍子に合わせ、薄い肌着を持ち上げて豊かな双丘が揺れる。揺れる。揺れていた。 「おはよう、師匠」 「……どこに挨拶してるのかな? アレンくん」 窓辺から差し込む朝日に目を細め、ようやく彼女は眠りという名の死から蘇生した。 ベッドに寝そべったまま彼女は、手探りで枕元とベッド脇の棚とを交互に行き来する。それはまるで、這いずる死者のごとく。アレンにとってそれは、いつもの見慣れた光景。 「あ、あれ……眼鏡……アレンくん、眼鏡どこ?」 「枕もとの上。師匠が今手を伸ばしているところから右……。いや違う、そっちは左」 そんなこんなでさまよってから、彼女はようやく眼鏡を手にする。がばっとベッドから体を起こし、半目のままで眼鏡をかけた。 蘇生有効時間記録保持者、あるいは蘇生魔術式構築の大権威、復活の女神とも称される、蘇生術士リザリア・アーデルハイド。それが彼女だ。けれどその一連の動作には、権威のけの字も感じられない。 「師匠。それじゃ俺、もう出るからな」 「え? えっと…………なんで?」 「あのなー、師匠。覚えてないのかよ? 何日も前から言ってるだろ。人前に出たがらないどっかの誰かさんの代わりに論文発表してくるって」 「あ! あー、うん。そうでした。覚えてる覚えてる」 焦った様子でわざとらしく、胸の前でぱんっと手を叩くリザだ。 「はぁ、まあいいけどさ……。とにかく、二週間ほど空けるけど、その間の食事は一通り冷蔵庫に入れといた。あとでちゃんと見とけよ」 ぶっきらぼうに伝えると、リザは「うんうん、ありがとっ」と微笑む。 「けど二週間かぁ、しばらく寂しくなるね。……早く帰ってきてね、アレンくん」 視線が、絡む。 どこか寂しげな彼女の双眸に、アレンはいつも吸い込まれそうになる。けれどいつも何か恥かしくなって、顔を逸らしてしまう。師弟にして恋人、それがアレンとリザの関係。 「ああ、行ってくるよリザ」 「師匠と呼びなさい!」 リザが紅潮した頬を膨らませる。 もっとも、言葉の割にその表情は嬉しそうだったが。 「あ、そうだ。戻ったら、アレンくんにちょっと手伝って欲しいことがあるの。昔の友達からの依頼なんだけどさ。……聞いて驚いちゃ駄目だよ? なんと……」 勿体をつけるように、リザはそこで溜める。なんなんだとアレンが首をかしげていると。リザは、ふ、と少し意地の悪い笑みを浮かべて。 「――――ドラゴンの蘇生だって!」 ◇ 時刻は昼を少し過ぎた頃。一つため息をついて、アレンは汽車を降りた。 駅員に切符をみせて改札を抜けた直後、けたたましい汽笛が鳴り響き、あたりに魔術燃焼の蒸気がたちこめた。 駅の構内は行き交う人々で溢れていた。 揉まれるようにその中を潜り抜け、構内に備え付けられた公衆電話にたどり着く。手早くコインを投入すると、受話器を耳に当てる。 「えっと、リザリア・アーデルハイド宅にお願いします」 電話交換手にそう告げ、しばらく待った。 「もうしわけありません、リザリア様はどうやらお留守のようです」 ところが返ってきたのはそんな答えで、アレンは仕方なく受話器を置いた。 「……おいおい、まさか死んでないだろうな、師匠」 つい愚痴をこぼして、アレンは昔あったことを思い出す。以前、何日か家を空けたときのことだ。帰ったらリザが研究に没頭しすぎて空腹で倒れていたのだ。確かあの時は衰弱がひどく、回復に一週間を費やした。それぐらいに自己管理が出来ていないのだ、あの蘇生の女神様は。 今回は二週間が経過。おそらく作りおきの料理は底をつき、リザはきっと飢えているだろう。まさか餓死にしたりはしてないだろうが、それに近い状態にはなっているやも。 「まあ、仮に死んでても蘇生時間内ならなんとか……いや」 冗談混じりにそんなことを呟いてみたものの、口にしたらちょっと心配になってきた。徒歩で帰宅するつもりだったものの、車を捕まえることにする。取り越し苦労かもしれないが、帰宅は早いに越したことは無い。 足早に駅を出て、手近に停車しているタクシーに乗り込んだ。アレンはすぐさま運転手に向けて目的地を告げる。 「すいません、七番街三の一の五番まで!」 ほどなく車が走り出した。決して座り心地は良くないものの、硬い座席にもたれアレンは安堵の息をついた。 アレンがリザと出会ったのは、三年ほど前のこと。 アレンの姉が船の転覆事故で死亡した際、蘇生限界時間を越えていた姉を死から救ってくれたのだ。それ以後、アレンはリザに弟子入りし、現在に至る。 当時から、リザの蘇生魔術の有効時間はすでに三時間を越えていた。蘇生魔術成立から五百年ものあいだ、三十分前後からほとんど変化しなかったにもかかわらず、である。それがどれだけ驚異的なことかは、論じるまでも無い。その功績から蘇生魔術の権威と呼ばれるも、リザは継続的に有効時間を延ばす研究を続けている。 従来型の蘇生術式とリザの術式はどう違うのか、アレンは一度見比べてみたことがある。 けれど基礎的な部分は全く同じで、魔術的に機能する数式にほとんど違いは見られなかった。そのかわり通常であればまるで意味をなさないはずの数列が組み込まれ、元の術式の倍以上がそれで埋まっていた。それでどうして機能しているのか、アレンにはまるでわからなかった。仕方なく直接リザに聞いてみると、 『一見すると意味がなさそうなことが、時に意味をもつことがあるの』 とのこと。それが答えなんだかはぐらかされたんだか、未だにわからない。 それでも、実際に効果を発揮しているのだから、彼女の言うように『意味がなさそうに見える意味』というやつのおかげなのだろう。だいたいにして、天才の言うことは凡人にはよくわからないものだ。だからこれもそう言うものなのだと、アレンはそう理解している。 ……けど、だとしてもドラゴンの蘇生ってのは無理じゃないか? 出掛けに突然聞かされた話を思い出して、アレンは額に手をやる。それは汽車で行き帰りの間も考えていたことではあるが、それは決して簡単なことではない。と言うか、不可能なことだ。 何故なら、ドラゴンと言う生物は今から八百年以上前に滅んでいて、死体の類もまともに残っていないからだ。そんなもの、考えるまでもなく蘇生出来るわけがない。 ……けど、リザがそんなことを口にする以上、きっと意味がある。と、思うけど……。 「お客さん、着きましたよ」 色々と想像を働かせていたものの、そんなことをしているうちに目的地に到着したようだった。考えるよりもよりも早く帰って話を訊くのが早いか、とアレンは車を降りる。 蘇生術の大権威の家、と言っても質素な家だ。小さく小奇麗な平屋建ての屋敷が、住宅街の一角に紛れ込むようにして建っている。そこには豪勢な門も、瀟洒(しょうしゃ)な庭園もない。ごくごく一般的な建築物である。 その玄関口に誰かが立っているのが見えた。遠目に眺めていると、呼び鈴を鳴らしては頭に手をやっているようだった。 ……誰だ、ありゃ。 「はぁ、まいったねこりゃ。今日会う約束だってのに……かと言って鍵壊して入るわけにもいかねーし」 若干物騒な話が聞こえてきて、アレンは密かに身構えた。 それは大柄な女だった。 背が高く、アレンより頭一つは分大きい。年のころはおそらくリザと同じぐらい。髪は肩ほどで切りそろえられていて所々跳ねている、化粧っけはまったくない。 着ているのは薄汚れた茶色の作務衣だ。それも上下が一つになった、いわゆるツナギというやつ。履いている靴も、炭鉱で働いているかのような、厚手のブーツだ。全体に女らしさは欠片も見当たらない。 そんな女が、門の前で引き続きなにやら唸っている。はっきり言って不審極まりない。怪しい。けれど、普通の客であれば見過ごすわけにもいかないず、アレンは声をかけてみた。 「あの、ウチに何か用ですか?」 「ああ、実はリザに用が……あっ、もしかしてお前が弟子のアレン?」 「……そうですけど、そちらは?」 「おおっと。あたしはヴィータ・アルシュメル。リザの古い友人で一応こういうもんだ」 笑顔でヴィータは、名刺を差し出してきた。 そこに書かれていたのは彼女の名前と『古代生物学者、』の文字。 「はあ……古代生物学者さん、ですか?」 「おう、よろしくな、アレン! あたしのことはヴィータって呼んでくれ!」 強引に握手を求められて仕方なく手を差し出すと、やたら大きく力強い手で握り締められた。アレンは痛みに顔をしかめるも気づいていないのか、ヴィータは笑顔を崩さない。どうやらかなり大雑把な性格の人らしい。 「あの、師匠の友人で古生物学者ってことは、もしかして用件はドラゴンの蘇生についてですか?」 「ん? なんだ、知ってるなら話がはぇえな。ああ、今日はその件で組んでもらってる術式の進捗状況を確認しに来たのさ。けどあいつ、全然出なくってなー。……ほら! リザって研究に没頭すると倒れる癖があんだろ? だもんだから、これ下手したら死んでるじゃね? って思ってさ。そんで」 丁度鍵を壊そうとしてたところなんだ、とヴィータは笑って説明してくれた。 それは果たして笑って説明するようなことかと思ったが、アレンとしても後半は同意見。とりあえず、物取りや詐欺師の類ではないことが確認出来たので家に入れても問題なさそうだと判断を下す。 「今鍵を開けます。もしかしたらたまたま留守にしているだけかもしれませんけど、師匠が倒れてたら手伝ってもらえます?」 「おー、力仕事ならあたしに任せとけ!」 わはは、と豪快に笑い、ヴィータは背中をばしばしと叩いてくる。それが息が詰まるぐらい痛くて、アレンは何も答えられない。 この人、性格が見た目通り過ぎる……。 密かに苦笑するも、それほど悪い気はしなかった。 扉を開けて家の中に入ると予想通りというかなんと言うか、予想をちょっと超えていた。 「これはまた……」 アレンはその有様に、絶句する。 居間兼客間であるはずのそこは足の踏み場も無いほどに散らかっていた。 ソファーは脱ぎ捨てられた衣類で覆い隠され、テーブルの上は食器がそのままになっていて。その上にはもはや元がなんだったのかわからない黒いものや青いものが干からびてこべりついて床には魔術の術式を試し書きしたとおぼしき紙が散乱しついでに床のそこかしこに何かをこぼしたあとが、あった。それを一応掃除しようとしたのか、拭き取ったというよりは引き伸ばしたかのようなシミが広がっていた。端的に言って、ひどい。ありえない。どうしてこうなる。 「その……お前も大変だな……」 さっきまで笑顔を絶やさなかったヴィータが、別人のように声のトーンを下げた。 「あいつの壊滅的家事力は知ってるつもりだったけど、ここまでひどいのは初めてだ」 「……俺だって初めてですよ、こんなのは」 これは記録更新だな、などとアレンはどうでも良いことを考え現実から目を逸らしてみた。さほど効果は無いようだったが。 「しっかし、懐かしいもんだ。あたしも昔ここで世話になったこともあんだけど変わんねーや。あ! おい見ろよ! あの壁の穴! あれってあたしが酔って空けたやつだ! んだよ、そのまんまだなー」 ははは、と壁にぽっかりと開いた拳大の穴を指差すヴィータの話は、ひとまず聞き流しておく。それよりも遭難している可能性があるリザの捜索をはじめることにした。 「えっと……ヴィータさん。ちょっとその辺に師匠が埋まってないか見てくれますか? 俺は反対側を探してみますんで」 以前こうだった時は、全裸で脱ぎ散らかした衣類の山の中に埋まっていた。どうやら風呂に入ったあとに着る物が無いことに気づき、そこにたどり着いて力尽きたらしい。あの時はそのせいで発見が二日遅れた。 探索ついでに床に散らばった紙を拾っていく。そのどれも、ひたすらに数字が並べ立てられている。手書きの魔術式だ。一通り目を通してみるも、見慣れた蘇生術式ではない。軽く読み解いた感じでは、対象に状態変化を引き起こす系統のようだった。 その一番最後の紙の一番下に“永遠の眠りからヒュドラは目覚める”と言う一文が記されていた。宣言文だ。その言葉を口にすることで術式は起動し、魔術を実行する。逆に言えば、それを口にしなければ絶対に魔術は発動しないようになっている。 ……師匠の新しい研究か? そう思ったものの、ひとまず今はリザの捜索が優先。とりあえずまとめて脇に寄せておくことにした。 そうして二人で一通り捜索してみたものの、結局遭難者は発見出来ず。 「なぁ、いたか?」 「いえ、いないみたいです」 一応とソファーの下も覗き込んでみたものの、リザの姿は見当たらない。何回かそこに引っかかっていたこともあるから、もしやと思ったのだが。 「師匠ー、いるー?」 声をかけながら、続いて台所ものぞいてみる。こちらは居間ほど散らかっておらず、せいぜい流し台が食器で埋まっている程度だった。皿が何枚か割れているようにも見えたが、それは気にしないことにする。 「ここにもいないみたいだな……」 他の場所に移ろうとすると、ヴィータがなにやらニヤニヤした表情で背中をつついてきた。彼女が指差す先を見ると、そこにはアレンが家を出る前に冷蔵庫に貼り付けておいたメモがあった。 『毎日ちゃんと食べろよ』 『わかったよ!』 『残り物は出しっぱなしにしないこと』 『頑張るよ!』 アレンはなにか書き込みが追加されているような気がしたが、それは見なかったことにする。しかしよくよく見れば、さらに自分がはった覚えのないメモもあった。 『アレンくん、早く帰ってきてね!』 『美味しかったよ、ごちそうさま!』 『うう、寂しい……』 『私、何書いてんの?』 『アレン……くん……まだ? がくっ』 「なあなあ、これって……」 ヴィータの声が何か言おうとしたので、即座に全て剥がしゴミ箱に捨てた。大丈夫、ここには何もなかった。 「とりあえず、ここにもいないみたいだな」 そう告げた瞬間、ヴィータに思い切り背中をぶっ叩かれた。 「ごふっ! おふっ、こふっ……な、なにすんだよ!」 「べっつにー」 ヴィータは頭の後ろで腕を組みしたり顔をしていた。 気を取り直して、リザ捜索を再開する。 その後、浴室やトイレも調べたがやはりリザの姿は発見出来ず。残るは実験室と寝室ぐらい。とりあえず、アレンたちは実験室から見てみることに。 しかしそこで、異変があった。 それもその異変は、部屋に入る前から気がついた。ドアの外にいるというのに、中から異臭が漂ってくる。どこか塩気を感じさせる、不快な匂いだった。 「あの、これって……」 「ああ、死臭……だな」 深刻な面持ちで、ヴィータが答えた。 互いにそれ以上は言葉を交わさず、無言でドアを開ける。タイル張りの広々とした室内に足を踏み入れるなり、強烈な腐臭が鼻を突いた。それと、不快なハエの羽音が。 匂いの原因はすぐにわかった。部屋の奥にある檻の中、そこに犬の死骸があった。いまだ原型をとどめつつも、その腐肉からは蛆が沸き、ハエがたかっている。 ……良かった、リザじゃない。 それを目にしてほっとするのも束の間、匂いにあてられて、胃の中から強烈な吐き気がこみ上げてきた。 「うぶ……っか、換気だ! 換気!」 ヴィータが口元を押え、窓を開け放つ。丁度吹き込んできた風で、いくらか室内の空気が入れ替わる。しかしそれでも、匂いの根本を断たなければどうにもならなそうだった。 アレンはその犬の死骸に視線を固定する。意識下で対象を犬の死骸に指定。続いて脳内に、指定燃焼魔術の術式を思い浮かべる。出力は三割程度に設定。 そして、 「――――炉に点すは、プロメテウスの火!」 発動の宣言文を口にした。 瞬間、死骸は青白い炎を巻き上げ、灰と化していく。燃えていたのは数秒、そのわずかな時間の間に、腐肉の塊は真っ白な灰と化していた。 「……すっげぇ! 初めて見たぜ、術式無しの魔術!」 通常、魔術士は術式が書かれた紙や書を手にしたり身につけていないと魔術を使うことが出来ない。けれどアレンは特異的にそれ無しで魔術を使うことが出来る。 「リザに少し聞いてたんだが……どうやってんだ? それ」 「さぁ? 俺にもよくは。ただ、師匠の話では、術式を頭の中に完全な形で記憶してるからじゃないかって話ですけど」 「へー、でも魔術書も紙もいらないんだから便利そうだなー」 「……そうでもないですよ、術式なしでも発動するってことは、ついうっかり口にして暴発するってことでもあるから」 簡単に説明してから、それより、とアレンは話を切り替える。 「とりあえず、師匠じゃなくて良かったですね……」 「だな」 「けど、どうして犬の死体がここに? 俺が出たときはなかったはずだけど……」 「んー、ありゃ多分あたしが依頼した術式の実験用だろうな」 「術式? 何の?」 「ま、そいつは企業秘密ってやつ。それより、あとは寝室だろ? 見に行こうぜ」 ヴィータの言う通り、次は寝室に移動した。 けれどそこにも、リザの姿はなかった。 ただ、ベッドの脇、何を燃やしたのかそこに灰の山が出来ている。他には何も燃えていないから、おそらくは対象を限定する指定燃焼の魔術によるものだ。何かゴミでもそこで焼いたんだろうか、とアレンは首をかしげた。 そんなことを考えていると、ふとヴィータが一枚の紙切れを手にぼうっと立っていることに気がついた。 「なんだよ、どうかしたのか?」 「あー、のさ……これはちょっと落ち着いてから読んだほうがいい、ような……」 アレンは妙に歯切れの悪い事を言うヴィータの手からその紙切れを奪い取り、見た。 ――――さよなら、アレンくん。 一瞬、その意味がわからず。呆然とする。 ふっ、と急に目の前が暗くなった気がした。顔を上げてみれば、ヴィータがアレンの顔をのぞき込んでいた。 「それがベッドの上においてあった。あと、これも一緒に」 そう言ってヴィータが差し出してきたのは、リザが普段身につけているはずの指輪で。そしてそれは、アレンがリザに告白した時にプレゼントした指輪で。 目の前が、真っ暗になった。 「……はぁ」 居間のソファーに腰掛けて深々とため息吐いていると、アレンはそのまま魂が抜けてしまいそうな感覚を感じた。と言うかすでにそうなったのか、何も考える気力が沸かず、立ち上がることも出来そうにない。 「おーい、大丈夫か? とりあえず茶を入れてきてやったからこれでも飲め」 台所からヴィータが、ティーポットとカップを手に出てきた。意外に繊細な手つきで紅茶をカップに注ぎ、テーブルにおく。 「悪いけど、茶菓子は見当たらなかった我慢してくれ」 そう告げるとヴィータは勝手知ったる我が家のように、どかりとアレンの隣に腰掛けた。それから自分の分の紅茶を注ぎ、口をつけた。 しばしそのまま、黙って紅茶をすすってから。 「あれなー。多分、何かの間違いだとあたしは思うぞ?」 「……気休めならやめてくれよ」 「いや、気休めとかじゃなくて」 頭を掻いてから、ヴィータはアレンを指差す。 「リザのやつ、あたしに散々自慢してたぞ? お前は優秀な弟子だって。術式の構築の素質があって、ついでに家事全般の才能もあるってな。だから、あいつがアレンを捨てるなんてことはありえない。あいつは誰かの世話無しには生きちゃいられないやつなんだから。……台所のメモも見ただろ? あいつはお前にベタ惚れだ。そいつは間違いない」 「……そうかな」 どうにも気弱になっていて、そんな言葉が口から漏れた。それでもヴィータの話のおかげか、さっきよりは幾分ましな気がして紅茶に口をつける。多少冷えてはいたものの、飲めなくはない。 「じゃあヴィータは、あの手紙どういう意味だと?」 「……ん? いや、まあ、それは、その……」 途端にヴィータは、しどろもどろになった。当然だろう、あの手紙の文面はどうみても良い知らせの類ではない。けれど、どうせ励ますならそこも上手い言い訳を考えておいて欲しい。アレンはつい、じっとりとヴィータを睨んでしまう。 「いや、ま、まあそれはそれとしてだ! アレン、お前ドラゴンは好きか?」 「……はぁ?」 唐突かつ無理やりにヴィータがそんな話題を振ってきた。一瞬なにを言い出したのかと思ったが、そう言えば彼女が古生物学者だったことを思い出した。 「あたしの普段の仕事は穴掘りか、骨とにらめっこの地味な仕事だけどな。ドラゴン、ギガス、ゴルゴン、それからセイレーンとかの骨を集めて研究してる。そんなかで一番好きなのがやっぱドラゴンでさ……。で、アレンは好きか? ドラゴン」 「ん? まあ、割と……」 目を輝かせて聞かれたせいで、アレンはつい首肯。すると、ヴィータはにっと笑んで、手を差し出してきた。どうやら握手しよう、と言いたいようだ。妙な圧力に負けて手を差し出すと、ぐっと力強く握り返された。 「いいよな、ドラゴン! やっぱかっこいいよなー。なんつーの? こう……ロマンがあるっていうか! 夢があるよな! ドラゴンに会えるなら……あたしは死んでもかまわねーって!」 熱っぽく語る様は、まるで恋する乙女。もっとも、見た目はさほど乙女じゃないのだが。 「アレンもそう思わないのか? ドラゴンに会えたらって。あー、ほら。蘇生術で蘇らせることが出来たらなー、とか思わんの?」 「いや、無理だろ」 ヴィータの質問に、アレンは即答。 「ドラゴンが生存していたのは八百年以上昔で、魔術の発展と共に狩りつくされた。一匹残らず滅んで、今見つかるのは骨や鱗がせいぜいで博物館で骨格標本が見られる程度。だから蘇生のために満たしていないといけない絶対の三大条件……一つ、有効時間内であること。二つ、頭部と胴体がそろっていること。三つ、肉体が完全に腐敗、または炭化などしていないこと。この三つともが満たされていない現状、どうやったって蘇生出来ない。つまり、絶対の絶対に絶対無理ってこと」 アレンが滔々と説明してやると、ヴィータはにっと笑った。 「へへん、わかってるじゃねぇの。このこの!」 ヴィータが拳で頭をぐりぐりしてくる。地味に痛い。けれどそこで声を上げたら思う壺のような気がして、努めて平気なふりをする。「……じゃあ、こんな話はどうだ?」 不意に、ヴィータの雰囲気が変わり、静かな口調で話だした。 「三ヶ月前、北の果ての永久凍土の中から、ドラゴンの死骸が見つかった。ドラゴン一匹丸ごとの氷漬けだ。それもまだどこでも見つかっていない、黒い体色で六本足の未記載種だ。天然の冷凍庫の中で、そのドラゴンは完全な状態で保存されてやがった。何がすげぇって、今見つかるのはお前も言った様に鱗や骨ばっかりだ。たまに塩漬けの肉なんてもんも見つかるが、今回のはそういうのとは訳が違う。まるでたった今、死んだばかりみたいな状態のドラゴンだからな」 抑え切れない興奮を無理やり抑え込んでいるかのようなヴィータの声が、室内に響いた。その意味は、古生物学に疎いアレンにだってわかる。さっき言ったばかりの三大原則、その二つまでは満たしている。絶対の絶対の絶対無理が、絶対無理程度のところまで近づいている、蘇生術士としてその事実に気づかないわけがない。 「……まさかそれに蘇生魔術を? 成功した?」 食いつくように問いかけたが、ヴィータは残念そうに首を振るだけだった。 「いんや、駄目だった。一応試したんだが、やっぱ蘇生限界時間の壁があるからだろうな。蘇生の大権威様の術式を持ってしても、そればっかりはどうにもなんなかった」 「なんだよ……」 「けど、調べてくうちに面白いもんがそのドラゴンから見つかった」 ヴィータはつなぎのポケットに手を入れ、何かを取り出した。 手の平から少しはみ出すぐらいの大きさの、楕円に近い球体だ。それは透明な膜に覆われていて、その中に黒いドラゴンが体を丸めて収まっていた。眠っているのか、その目は閉じられている。 「これは……」 「そのドラゴンの体内から見つかった卵……の、レプリカな。本物は今、研究所の冷凍庫の中で眠ってる。そしてこの卵を使って、このドラゴンを蘇生させる計画が進行中」 「いや、でも。卵だろうとなんだろうと、結局蘇生限界時間は……」 「そう、蘇生は絶対に出来ない。蘇生ならな」 ヴィータは含みのある言い方で、口角を吊り上げた。 「……それがリザに依頼した術式、ってことか?」 ごくりと唾液を嚥下し、突き刺すように視線を送る。ヴィータは不敵に笑い、ぐっと額がくっつきそうなぐらいに顔を近づけてきて。 「あ、もう遅いし泊まってっていいか? もともとそのつもりで来たんだし」 だがしかし急に態度を軟化させ、飄々とそんなことを言い出した。どうやらはぐらかされたらしい。 しかし言われてみれば、確かに外はもう暗くなっていた。窓の外は暗く、すっかりと夜の帳が落ちている。 「まあ、好きにすれば良いと思うけど」 「お、ありがとさんっ!」 ヴィータは笑みを浮かべて、肩を叩いてきた。 その痛みに顔をしかめながら、アレンはゆっくりとソファーから立ち上がった。 「……俺、疲れたからもう寝るわ」 まだ家中が散らかったままだが、片付けるような元気は欠片もない。全身が妙に気だるく、今すぐ眠りたかった。それはヴィータに肩透かしをされたせいなのか、それとも。 「んじゃあたしはここのソファー使わせてもらうかんな、独り寝が寂しかったらいつでもこいっ」 「……いかねぇよ、馬鹿!」 「おっ、その元気があれば大丈夫そうだな!」 わはは、とヴィータは豪快に笑う。そのせいで余計に疲れてしまい、アレンはさっさと居間を後にする。 寝室に到着するなり、アレンはベッドに倒れ込んだ。リザの残り香がするシーツと枕に顔をうずめ、深呼吸。それで少し、疲労感がやわらいだ気がした。 けれどベッド脇の棚を見れば、さよならの文字が書かれた紙は、相変わらずそこに残されている。 「リザ……」 まるでまどろみが、まぶたの上に腰掛けているように。アレンは、ゆっくりと瞳を閉じていった。 リザが戻ってきた。 生憎とそれは、夢だったが。 「……なんだよ、それ」 アレンの暗澹とした呟きが、静かな部屋の中に響く。どうやらすでに朝のようで、カーテン越しの陽光が顔を照らしていた。 「はぁ……ごほっ! ごほっ!?」 深くため息をつこうとして、むせた。のどの痛みと、なにかが胸の奥に引っかかっているような感じもある。額に手を当ててみると少し熱いような。もしかしたら、風邪でもひいたのかもしれない。 体が重かった。 ベッドから起き上がることすら辛い。 よく、体が鉛のように重い、などという言い回しがあるが、まさにそれ。ほんの少し移動するのも一苦労。けれど猛烈な喉の渇きに突き動かされ、這いずりつつベッドを降りた。そのまま、歩き出してはみたが。 「ぅ…………何、ごほっ、ごほっ、げぁあああああっ!」 途端に、胃の中から熱いものがこみ上げてきた。 かつて感じたことのない灼熱感が喉を通過していく。半ば窒息しかけながらも胃から逆流してきたそれを吐き戻すと、やたら重々しい音を立てて床に落ちた。それを目にする間もなく、もう一度胃が暴れだす。アレンは床に崩れ落ち、再度吐き戻した。 吐瀉物が床を叩く音を耳にしながら、二度にわたる嘔吐で完全に酸欠になる。朦朧とする意識をなんとか立て直そうと肩で息をする。そのまま一分か二分か、荒い呼吸を繰り返していると、なんとか落ち着いてきた。 「な……んだ、これ?」 ようやく目の焦点が定まった頃、アレンの目に飛び込んできたものはあまりに奇妙なものだった。 たった今、自身が吐き出したもの。 それは、卵だった。 透明な膜のような殻の中に、黒いドラゴンが閉じ込められている。見た目には、ヴィータに見せられた卵のレプリカと寸分違わない。六本足のドラゴンが詰まった卵だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、その中に詰まっているドラゴンが動いているということ。そしてそれが二つ、今アレンの目の前にある。 「は? …………え、なんで……」 いったい何が起きているのか。 あまりに奇怪な状況に、アレンは床に手をつき眺めていることしか出来ない。 するとそのうちの一つで、透明な殻越しに小さなドラゴンが身じろぎし、六本の手足を振るった。手足の先端には鋭い鉤爪がついていて、分厚いゴムのような殻が切り裂かれる。得体の知れない液体が流れ出て、床に広がった。やがてその殻の裂け目から、ずるりとドラゴンが這い出してきた。 ドラゴンはゆっくりと首をもたげると、まだ開いていない目をアレンに向けた。六本の足で立ち上がると、犬のように歩き出し、アレンの手元に擦り寄ってきた。かすかに動いている鼻先を見るに、匂いでこちらを見つけたのか。大きさはせいぜい子犬ぐらいか。未知の状況に何も反応出来ず、漫然とそれを眺めていると。 「……っ!」 腕に、激痛が走った。 噛まれたのだと気づくのに、数瞬を要した。すぐさま振りほどこうとしたもののそれは叶わない。恐ろしく顎の力が強く、猛烈な痛みが傷口から脳天へと突き抜けていく。 「ぅあああああああああああああっ…………っ!」 ドラゴンを必死に殴りつけるも、拳に激痛が走る。にもかかわらずドラゴンには、堪えた様子が微塵も感じられない。むしろ泰然として、こちらの様子をうかがっているようにすら思えた。 アレンは即座に頭を切り替える。寝室内の手近な椅子を手繰り寄せて、それで思い切り、殴りつけた。 「はぁあ――――っ!」 強烈な手ごたえ。予想以上の反動で、椅子が手を離れてあらぬ方向へと弾き飛ばされた。しびれた手が、細かく震える。 しかしそれでも六本足のドラゴンは、何事も無かったかのように腕に食いついたままだった。さっきまでと、状況は何ひとつ変わっていない。 「く、そ……それなら!」 アレンは即座に燃焼の魔術を思い浮かべる。頭の中心に意識を集中し、指定燃焼の術式を記憶から引き出す。対象、黒いドラゴン。出力は最大。アレンは術式に魔力を流し込み、小さく息を吐き、宣言する。 「――――炉に点すはプロメテウスの火!」 ぼっ、と音を立てて、瞬時にドラゴンの体から青白い炎が巻き起こった。 「ギジャ、ジャァアアアアアアアアアアアアッ!?」 途端、ドラゴンは炎を身に纏って絶叫とあげる。たまらずアレンの腕から剥がれ落ち、狂ったように舞い踊る。炎に巻かれながら、ドラゴンは体の端からぼろぼろと崩れ、灰を撒き散らしていく。 アレンは肩で息をしながら、じっとその様を見守る。完全に燃え尽きるまではとても目を離す気にはなれなかった。 「おい! 今の声はなんだ!」 けたたましい足音と共に、ヴィータが部屋に入ってきた。ヴィータはいまだ燃えているドラゴンを目の当たりにして、驚愕の表情を浮かべる。 「おい! なんなんだ、こいつは!」 「わ、わからない……。ただ……」 言いかけて、はたと気づいた。もう一つの卵の中身、それがいつの間にか、いない。床にこぼれた液体から、それからもドラゴンが生まれたのは確実。アレンは即座に部屋の中を見回して、それが、ヴィータのすぐ後ろに音もなく忍び寄っているのを見つけた。 「ヴィータ! 後ろ!」 その声と同時に、ヴィータが後ろ回し蹴りを放つ。頑丈そうなブーツがドラゴンを捉え、ボールのように壁まで蹴り飛ばし叩きつけた。にもかかわらずドラゴンは何事も無かったかのように立ち上がり、極限まで口を開いた。見れば、傷ついたのは壁の方。小さく陥没し、その破片が床に降り注ぐ。 「いくらなんでも硬すぎんだろ!」 「ジャァアアアアアアアアアアッ!」 体勢を整えたドラゴンが威嚇音を放ち、ヴィータに疾駆。瞬時に距離を詰め、肉薄する。 しかしその牙が届くより早く、ヴィータはすでに行動していた。 「ダイダロスは、迷宮を刻む!」 宣言と同時、ヴィータのツナギが発光し術式が浮かび上がった。瞬間、その牙を突きたてようと大口を開いていたドラゴンの体が、直前で、ぞんっ、と耳慣れない音を立て、跳ねた。 そのまま床に落ちて、動かなくなる。その体中には無数の穴が開き、そばに紐状の肉片がいくつも落ちていた。 「お前とはもうちょっと違う出会い方をしたかったよ」 ヴィータは苦虫を噛み潰したような表情で言い捨てると、アレンに目を向けてきた。 「……いったい何があった?」 「その、俺にも何が起きたのか……」 目にしたことが本当にあったことだと思えず、上手く説明出来そうになかった。体の中からドラゴンの卵が出てきたように見えたものの、そんなこと普通ならありえない。どうにも説明しあぐねていると、ヴィータは困り顔で肩をすくめた。 「はぁ……とりあえず怪我を見せてみろ。その腕、噛まれたんだろ?」 「ん? あ、ああ……」 言われるまま、血に染まった服の袖をあげていくと。 「なっ……」 「おい、こいつは……」 アレンたちは、息を呑んだ。 そこには異様な光景が広がっていた。 傷のすぐそば、うっすらと透けた皮膚の下を極小の卵が並んでいた。もちろんその中には、黒いドラゴンが閉じ込められている。今にも皮膚を食い破り出てきそうなそれは、さっき見た卵に比べればずっと小さい。けれどそれは確実にそこに存在し、息づいていた。 ぞっと、アレンの背筋を冷たい物が通り抜けていく。うっすらと浮いてきた汗はやがて滝のように流れ出た。 そればかりか、腹部が不規則に波打つのを感じた。まさか、腹の中で何かが動いているのか。震えがとまらない。呼吸がおかしい。 ……いったい何が起きて。 吐き出した卵と、現在進行形で変化しつつある肉体。アレンの全身が、恐怖に包まれる。 「お、おい、どうなってんだよこれっ?! いったいどうしてこんなことに……。なんなんだよ、これ……どうなったんだよ、俺の体は!」 「落ち着け! 黙れ! そしてあたしの質問に答えろ!」 ヴィータに怒声と共に襟首をつかまれて、息が詰まる。問答無用の沈黙を強要され、鋭い眼光で睨みつけられた。 「昨日、何か見慣れない魔術を使わなかったか? あの指定燃焼以外に」 そう言われて必死に記憶の糸を手繰るも、そんな覚えはまったくない。昨日魔術を使ったのは、記憶の上では間違いなくあの一回だけだった。 「使ってなくてもいい。妙な術式を見かけたなら教えろ」 「そう言えば……居間を片付けてた時に見たことのない術式を見たな。それも魔術式とは違うやつも混じったようなのを」 「それだ」 得心がいったのか、それでヴィータが手を離した。息苦しさから開放されて、アレンは深呼吸する。 「そうか、お前は術式無しで発動出来る。それで読み取った術式の宣言文をうっかり口にしたか、たまたま口にしたか、それとも暴発したのか……」 ヴィータは口元に手を当ててなにか考え込んでいるようだった。 「ってことは、例の術式はある程度完成して? いや、この様子を見るにまだ未完成……」 そう独りごちているが、アレンには言ってる意味がわからない。いったい何の話なのか、自分に何が起きているのか、ただひたすらに不安を煽られる。 とりあえずわかったのは、このままではまずいということぐらいか。 「お、おい、今度は俺の質問に答える番だろ? 教えてくれ、いったい今俺に何が起きてるんだよ!」 「ああ、わかった。……こうなった以上、話さないわけにはいかねぇしな」 いつもの明朗さはなりを潜め、ヴィータは沈痛な面持ちを浮かべた。 「今お前にかかっているのは、ドラゴンの再生術式だ」 「……再生? 蘇生じゃなく?」 「つい最近のことだ。生命神秘学の研究者のやつらが、生命が因子式ってものによって存在していることを発見した。そいつらが言うには、因子式ってのは魔術でいう術式みたいなもんで、あたしら生命は、その因子式があるから存在している、ってことらしい。魔術が魔術式の発動によって生じる、みたいにな」 「なんだ……それ? そんなわけが……」 そんな話、にわかには信じられない。一瞬で発動し特定の現象を生じさせて霧散する魔術と、確かな存在としてここにいる自分が同じものだとは。 「あたしも最初は信じらんなかったさ。生き物と魔術を一緒にすんな、ってな。けど、ふと思ったんだ。もしそれが本当なら、事実なら。現存する生物の因子式をドラゴンのそれに書き換えたら、どうなるんだろうってな。もし、因子式の話が本当なら、それでドラゴンを現代に蘇生出来るんじゃないかって。そう、考えた」 ヴィータの話に、アレンは息を呑む。彼女が何が言いたいのか、それを段々と理解し始めて。 「ドラゴンの因子式の抽出まではうまくいった。新鮮な材料には事欠かなかったからな。けど、どうしても書き換えの術式がうまく組めなくて失敗続きだった。それでリザに依頼したんだ。……けど多分、どっかにミスがあったんだろうな。中途半端な状態で術式を渡したからか、リザがミスったか、それとも渡した時点ですでにミスってたのか……」 そこまで聞いたところで、アレンはヴィータの肩に手をかけた。腹の底から搾り出すように、その質問をなげかけた。 「じゃあリザは、どうなったんだ?」 その問いかけに、ヴィータは答えなかった。 その代わりにゆっくりと立ち上がると、ヴィータはベッドに近づいていった。それからおもむろにしゃがみこむと、ベッドの下に手を入れ、何かを拾い上げた。 それは、人の指、だった。 それも半ばから噛み千切られたような、細い指だ。二人で呆然と、それを見つめる。 アレンの脳裏に、嫌な予感が駆け巡る。 さよならと書かれた書置き。 残されていた指輪。 噛み千切られた指。 そして、寝室に広がる灰。 それらがどんな意味を持っているのか、アレンにだって理解出来る。けれどそれは、理解したくないことで。ただ沈黙し、アレンはそれを見つめる。 「試験運用中の術だからな……」 痺れを切らしたように、ヴィータが口を開いた。 ……やめろ、何を言うつもりだ。 「元に戻す方法なんてない。きっとリザは今のお前と同じことに、いやもっとひどい状態になったはずだ」 黙れ、喋るな。何も言うな。 「それで最後には、指定燃焼で自らをドラゴンごと焼き尽くしたんだ」 「違う!」 一番聞きたくないことを聞かされて、アレンは絶叫した。違う、そんなことはありえない。嘘だ。そんな言葉が、アレンの頭の中でこだまする。 「けど、見ろよ。書置きと指輪とこの灰……どう考えたって……」 「違う!」 認めたら、それが本当になってしまう。そんな気がしてアレンは首を横に振る。そうしないと、今にもそれを信じてしまいそうな自分がいるから、それが事実になってしまいそうに思えたから。だから力いっぱい否定する。 「師匠が、リザがそんなことするはずない! リザは簡単に諦めない! でなきゃ、誰も手をつけなかった蘇生術の有効時間の記録に挑んだりしない! リザは……リザは!」 それ以上、ヴィータは何も言わなかった。 ……考えろ! アレンは自分自身に檄を飛ばす。 ……あいつはそんなことをする女じゃない。蘇生術士が簡単に死ぬはずがない。考えろ! 絶対どこかに、他の手がかりがあるはずだ! 再生術のせいで動悸のする体を無理やりに動かして、部屋の中を見渡す。ヴィータの突きつけてきた事実を覆すための証拠を探す。 書置き、床に広がった灰、食いちぎられた、指。そのどこかに突破口がないか探し出せと、心の底から声がする。 ……人間を燃やしたにしては、灰が少なすぎる? いや、燃焼温度によって灰の量は違ってくる。それだけじゃ否定しきれない。 探せ、よく見ろ。そして考えろ。全身の神経を集中させ、アレンは部屋の全てを観察する。 ……燃焼術式が書いた紙がない? いや、手にした状態で対象を自分に指定したら、紙も一緒に燃える。これも駄目だ。 部屋の中を穴が開きそうなほど凝視するものの、それらしいものは見当たらない。半ば諦めの空気が漂い始め、アレンは不意に部屋の出入り口に視線を流した。 と。 床板に、ほんのかすかだが黒いシミがあった。それも点々と、廊下へと続く。木製の古びた床であるため、長年の汚れでほとんど目立たない。しかし床に寝てみると、それは確かに光を反射して、部屋の外へと続いているのがわかった。 アレンは体を起こし、ヴィータに告げる。 「指がここにあるなら、食いちぎられたのはきっとここだよな? けど、血の跡は外に続いてる。……つまり」 「リザは、ここでは死ななかった?」 ヴィータの答えに、アレンは首肯する。 「リザは諦めずに、どうにかする方法を思いついたんだ。だから部屋を出た。つまり、リザはまだ生きてる」 「い、いや、ちょっと待ちな! じゃあ、あいつはいったいどこにいるってんだ! あたしらは家の中探したんだろっ?!」 確かにそうだった。 家の中は全て探した。それでも見つからなかったのだ。かと言って、外に出たとも思えない。再び状況は袋小路に陥る。 そう思った、ときだった。 「あ……いや、そうか!」 唐突に、ヴィータが声をあげた。何事かと視線を送ると、ヴィータはにっと不敵な笑みを浮かべる。 「思い出した。昔ここにいたって言ったろ? そん時、世話になった礼に地下室を作ってやったんだ」 その言葉に、再び希望の火が灯った。 「よし、そこに行こう」 「は? いや、けどお前その体じゃ……」 ヴィータが眉根を寄せる。 さっきから皮膚の下でドラゴンが蠢いているのか、ひどく痒い。頬の下でも同じことが起きているのか、妙にうずいた。胃の辺りに関しては、三匹目が生まれようとしているのか、ぐるぐると嫌な音を立てていた。 それでも、立ち上がる。 「だから急ぐんだろ。リザなら絶対に、これをどうにかする術式を編み出してるはずだから」 「お前、絶対どうかしてる」 うんざりとヴィータは呻いて睥睨する。 けれど。 「……ったく。肩につかまれ、んな体じゃまともに歩くのもきついだろうが」 ヴィータに支えられて、歩き出した。 移動した先は、魔術実験室。前日に犬の死体を処分した部屋だった。その部屋の中央に立ち、ヴィータはアゴで床を示した。 「昔、ここに地下室を作ってやったんだ。何かあった時のために、ってな。確かそのあたりのタイルに術式を埋め込んであるはずだ」 「……どのタイルだ? 宣言文は?」 「いや、こっちのが早い」 それだけ言って、ヴィータは床に手を向けた。 「ダイダロスは迷宮を刻む!」 タイル張りの床が左右に割れ、瞬時に床がぽっかりと口をあける。その中心には、梯子の備え付けられた穴が出現していた。 その途端、中から息の詰まるような臭気が湧き上がり、アレン達は同時に呻く。 開け放たれた穴から下を覗き込もうとすると、より濃密な異臭が鼻をつく。それは前日に、嗅いだものと同種の匂いだった。不快な気分を呼び覚ますし、吐き気をもよおす臭い。蘇生術にたずさわるものなら、きっと誰でも知っている。それは、そういう臭いだった。 ヴィータに担がれて、下に降りた。 小さな部屋だった。部屋の中は薄暗く、明かりもない。けれど開け放たれた頭上の扉から差し込む光で、その惨状は見て取れた。 複数の、灰の山。床に点在する、赤黒い染み。それと人の形をした、小さな肉片。手の平大のそれが、腐臭を放っていた。 そしてその中心、毛布を敷いただけの、簡易的な寝床。そこに、彼女は横たわっていた。 口元には、血を吐いたあとが。眼鏡はずれていた。その頬はこけ、やせ細った手足が投げ出されていた。その体のどこにもドラゴンの痕跡は見当たらない。ただ同時に、命の気配もどこにも感じ取れなかった。 「り、リザ……?」 ヴィータはアレンを降ろししゃがみ込むと、震える手を伸ばしてリザに触れた。けれど彼女は何の反応も示さず、ただヴィータの指にされるがままになっていた。 アレンは呆然と床に座り込んだヴィータの脇を這って、ようやく彼女の元へと辿りつく。 リザの手を持ち上げ、紫色に変色した部分を指で押してみる。何も変化はない。体の硬直具合も確かめてはみたが。 「駄目だ……もう、蘇生限界はとっくに……」 ヴィータが、呻くように言った。 その言葉にアレンの頬を、一筋の涙が零れ落ちていった。喉のおくから嗚咽が湧き上がってくる。 アレンは、泣いた。 泣いた。 泣き喚いた。 それは何年ぶりのことだったか。 姉が死んだとき以来か。その蘇生が叶わないと理解したときか。それとも、蘇生出来ると知らされて、実際に姉が目を開けるところを目にした時か。 「馬鹿師匠…………蘇生術士が死んじまってどうすんだよ。あんた、まだまだ記録延ばしてやるって、みんなが理不尽な死に悲しまない世界にするって言ってただろ!」 その絶叫は小さな部屋の中に響き渡った。 アレン・シュヴァンテは知っている。 蘇生魔術は人を生き返らせることを。 同時にそれが、決して平等でも慈愛に満ちたものではないことも知っている。 心肺停止から二十四時間と三十三分。 それが現行術式の蘇生限界時間だ。 その一線を越えない限り、蘇生魔術は死者を現世へと呼び戻す。 それはかつて、蘇生限界時間が三十分に満たなかった頃から見れば大躍進と言える。 だから誰もがこう言う。 昔から見れば、多くの命が救われるようになった。今は良い時代になった。幸せな世界になったのだと。 それは、間違いのないことだ。アレンだってそう思う。 けれど、アレンは知っている。 例えどんなに執行猶予が延びたとしても、決して救われない人間もいるのだということを。それはそういうものだということを、アレン・シュヴァンテは知っている。 知っている、しかし、たとえそうだとしても――――。 アレンは足を投げ出し、床に手をつき体を起こす。限界が近い体に鞭打って、力を振り絞る。目眩がした。それでも意識を保って、皮膚の下でいまだ蠢く不快なドラゴン達を気合で押さえつけて、全身の魔力を集中する。 そして、リザが教えてくれた蘇生手順を思い出す。 「アスクレピオスは杖をふるう」 第一段階、まず痛んだ肉体を修復する。 「やめろ、もう無理だ……」 無理? そんなことは知っている。 「ヘスティアは、暖炉に火を灯す」 第二段階、肉体の修復が済んだら、冷え切った体を温める。高すぎても低すぎてもいけない。 第三段階、気道の確保。リザのアゴをもちあげる。 「ど、どうしてだよ……? なんで、まだ諦めないんだよ!」 「俺が、蘇生術士だからだ!」 うろ覚えの蘇生術式を必死に思い出し、頭の中でつなぎ合わせる。正確に機能するかどうかも怪しい術式の発動。それがどんな結果を生むかは、神のみぞ知る。神話にちなんでリザがつけた、宣言文を、思い浮かべる。 けれどそれは、人の名を冠する魔術。 無き妻を求め、冥界へと降り。 美しき竪琴の音色で、冥王の心をも動かした。 けれど結局は振り返り、妻を失ってしまった悲しい男の。 だからリザは、その事実を捻じ曲げた一文をもって、蘇生の宣言とした。 「――――オルフェウスは、振り返らない!」 絶叫に近い声量を、衰弱した体から搾り出す。刹那、青白い光がリザの体を包み込み、さらにその輝きを増大させていく。やがてリザの心臓が鼓動を再開する。血液が循環を再開し、頬に赤みがさす。呼吸を開始する。 しかし、リザは目覚めなかった。 まるで眠っているかのように、目を覚まさない。 「駄目だ、やっぱり、蘇生は……」 暗澹としたヴィータの声が、背後から聞こえてきた。 それでも、アレンは諦めきれない。ぬくもりを取り戻したリザの体を、強く抱きしめる。「なんだよ目を覚ませよ! 何が悪いんだよ! 戻ってこいよ! くそっ! リザっ! 目を覚ませ! もう朝だぞ!」 その時、ぴくりと、その体が動いた。 それはやがて、はっきりとしたものになり、 「んっ、アレンくん……だから、普段は名前で呼ばない約束だって……」 やがて彼女が、ゆっくりと目を開いた。 「あれ、アレンくん……いつ帰ったの? え? ヴィータもいる。なんで?」 寝ぼけ眼で、リザは眼鏡を探そうとして、すでにかけていることに気づく。その仕草を見ていると、アレンの目に、もう一度涙が浮かんできた。 そしてアレンはもう一度、リザを抱きしめた。 『エピローグ』 壮大な丘が揺れていた、目の前で。 気がつくとアレンはベッドに寝かされていた。いつの間にベッドに入ったのか。その前後の記憶は一切ない。覚えているのは、リザが無事目を覚ましたところまで。 とりあえず寝室のようだった。窓の外からは穏やかな陽光が差し込んでいる。 すぐ目の前には椅子に腰掛けたリザがいて、うつらうつらと舟をこいでいた。 ……良かった、夢じゃなかったんだな。 疲れてはいるようだが、血色はそう悪くない。確かにそこにいるリザを眺めて、ほっと安堵のため息をもらす。 「……ふぁっ?!」 かくり、と落ちかけた頭が奇声と共に跳ね起きた。リザは寝起きで状況が飲み込めていないようで、数秒辺りを見渡す。やがてかすかに頬を染め、ずれた眼鏡の位置を直した。 「えーっと……お、おはよう、アレンくん。もう起きてたんだね。体、平気? 一応、治ってると思うんだけど……」 そう言われて初めて、アレンは自分の体がなんともないことに気づいた。皮膚のどこもざわつく感じはしないし、体の中でドラゴンが蠢く不快感も感じない。手の平を覗き込んでみても、微細なドラゴンの卵が皮膚の下から透けて見える、なんてこともなかった。 「えっと。多分、大丈夫だと思う」 「そう、良かった……」 ほっとした面持ちで、リザは安堵のため息をついた。 一体どうやって治したのかと思っていると、リザはこほんと咳払いをして説明をはじめた。 「ほら、そもそもの原因は、自分の因子式をドラゴンの卵の因子式に書き換えられたからでしょ? てことは、さらに自分自身の式を書き込んであげれば元に戻れるってわけ」 「……ああ、なるほど確かにな」 言われてみれば、どうということのない理屈だった。 「でも、それが思ったようにはいかなくてね。もともとの術式が不完全だったせいで、今度は小さい私が体中から生えてきちゃってね。その修正に時間も体力もとられちゃってさー」 それで死んじゃったみたい、あっはっはー、とリザはまるで他人事のようにあっけらかんと語る。それを聞いていて、アレンは思わず苦笑せざるえない。自己管理が出来ないというよりこれは、自己管理という概念自体を理解していないのではないか。つい、そんな事を考えてしまう。 「……んで、師匠。なんだったんだよその書置き。本気で驚かされたぞ」 ベッド脇にまだそのままになっている紙切れを指差すと、リザは腕組みして不満げな表情を見せる。 「だって、しょうがないでしょ? あの時はホントにどうしようもなくて、死ぬって思って、書いてる時は本気で自分を燃やすつもりだったんだし」 「じゃあ、わざわざ地下室に隠れた理由は?」 「う、そ、それは……」 何故か、しどろもどろになって、リザは口ごもる。そのままじっと、睨んでいてやると。 「へ……変な状態の体をアレンくんに見られたくなかったの! 悪い?!」 開き直って怒り出したので、それ以上は追及しないことに。とりあえず全部終わったことだし、アレンもまあいいかと気持ちを切り替えことにした。 「あ。ところでヴィータが言ってたんだけど、結局私はどれぐらい死んでたの? どうみても手遅れだった、って聞いてるんだけど」 蘇生術士としてのサガがそうさせるのか、リザは自分の死についての話を、興味深げな表情を見せる。 「どうだろうな。俺もそう見えたけど、成功した以上時間内だったんじゃないかな……」 「それは、蘇生術士としての意見?」 リザの問いかけに、いや、と首を横に振る。正直なところ蘇生術士としてみれば、あれは成功するはずのない蘇生だった。あの時のリザの体の状態は簡単に検死をしただけだが、ゆうに心肺停止後三十時間以上は経過していた。 「あれは、俺自身何をどうしたのかわからないからな。そもそもそれを確かめるための術式は頭ん中だ。これじゃ検証のしようもない。ただあの時は……」 必死だったから、そんな言葉を飲み込む。 実際のところ、アレンとしては記録更新だとかはどうでもいい。リザが生き返ったんなら別に何でも良くて、それが全てだ。投げやりにそんなことを考えていると、リザが艶然と笑みを浮かべてこちらを見ていた。 「……なに笑ってんだよ、師匠」 見とがめるとリザは、んー? と微笑んで、 「――――意味のないはずのことが、時に意味をもつことがある」 よく通る声で、いつか聞いたことのあるその言葉を口にした。一瞬、なぜそんなことを言ったのか理解出来なかったが。 「もしかしたらだけどね、アレンくんの場合、術式が頭の中にあったからじゃないかな。紙に書かれた術式は決して変わらない。でも、頭の中の術式はどうかな? きっとアレン君は、本来術式に書き込まれていないものを、書き込めないはずのものを術式に入れてくれたんじゃないかなぁ、って……そう思っただけ」 そう言われると、アレンは不思議と顔が熱くなった。体も火照り、リザと目を合わせていられなくなる。妙に、愛おしくなって、リザのことを抱きしめた。その耳元で、そっと囁く。 「悪い。言い忘れてたことがあった」 「うん、何?」 「おかえり、リザ」 数秒沈黙が続いてから、ふふっ、と小さな笑いが耳をくすぐっていった。 「うん……ただいま」 腕の中のリザには確かな温もりがあって、命の鼓動があって。耳元で吐息が聞こえて。そして彼女の匂いがした。 確実に、リザはそこに生きていると実感する。 それはもし仮に、オルフェウスが妻、エウリディケを連れ帰ることが出来たら、得られたはずの喜びで。 目を合わせると、リザはにこっと、女神の微笑を浮かべて。 艶めいた瞳が、真っ直ぐにアレンを射抜いてきて。 アレンは振り返ることなく、そっと唇を重ねた。 FIN |
ハイ 2017年04月30日 23時30分16秒 公開 ■この作品の著作権は ハイ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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合計 | 13人 | 180点 |
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