ヒナの入った不思議な卵

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 現実はしばしば残酷で、思い出のもとになる事実は、とかく後味の悪いものだ。
 思い出したくない、そう思っていても、頭から離れてくれない思い出がある。

 俺の父親は転勤族だった。だから俺は二年以上、同じ土地に住んだことがなかった。
 場所は、長野だったか、仙台だったか、どこか良く分からない。なだらかな低い山々が割と近くにあり、田んぼが広がる田舎だったことを覚えている。
 俺はまだ幼かった。だから、親しくなった相手との別れが、悲しくて、辛くて、寂しいことを、まだ実感していなかった。
 別れるのがいやだから親しい相手を作らない、そうなる前のことだ。
 新しい季節の訪れは、新しい人との触れ合いをもたらす。だから、その時には新参者の俺も、あっさりとその場に溶け込むことができた。
 年上の子供が小さな卵を配っていた。
「生まれたばかりは、けっこう可愛いよ」
 そう言われも、ほとんどの子供は受け取るのをためらっていた。
 卵は少し細長くて、繭みたいな感じだった。
 年上の子供は、卵をもてあましているようだった。
 俺は、もらってあげようと考えた。
 だから、俺は「欲しい」と言った。
 しかし年上の子供は、俺に卵を渡すのをためらった。
 俺は、本当に卵が欲しくなった。そこで重ねて言った。
「欲しい。大切にするから」
 年上の子は、ためらいながら俺に卵を分けてくれた。
 卵をもらった別の子供が言った。
「俺、ワラで巣を作ってやるんだァ!」
 年上の子は、その子に言った。
「それが良いね。ころがって失くさずにすむから」
 俺はたずねた。
「どうやって温めるの?」
「温めなくていいよ。自然に孵るから」
「どのくらいで孵るの?」
「たぶん、二、三日だと思うよ。このごろは暖かいから」
 俺は想像していた。
 その卵には、それはそれは可愛いらしいヒナが入っている。
 俺は卵を脱脂綿で作った巣にいれて大切に守ってやった。
 四、五日たって、俺の目の前で、なんと卵から蛇が出てきた。

 俺はビックリした。

 卵の中には、可愛いヒナが入っていた。
 それなのに、ヒナは生まれる前に蛇に食われてしまった。
 俺はそう思った。
 可愛いヒナは、外の空気を吸うこともなく、澄んだ水を飲むこともなく、美味しい餌を食べることもなく、俺の手の平のうえで優しく撫でられることもなく、蛇に呑まれてしまった。
 俺はヒナを守ることができなかった。
 それが悔しくて悔しくてたまらなかった。

 蛇は獲物を丸呑みにする。
 だから、ひょっとするとヒナは、蛇の腹の中で、まだ生きているかもしれない。
 俺はそう考えて、まだ生きてるヒナを傷つけないように気を付けながら、手にしたナイフで……
朱鷺(とき)

2017年04月30日 10時19分10秒 公開
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■作者からのメッセージ
◆キャッチコピー:
 俺は想像していた。その卵には、それはそれは可愛いらしいヒナが入っていると。
◆作者コメント:
 この物語の主要な部分は、実際の体験に基づいています。

2017年05月16日 18時19分57秒
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0点
2017年05月05日 12時06分26秒
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2017年05月02日 23時40分17秒
2017年05月01日 20時58分03秒
0点
2017年05月01日 12時38分30秒
-10点
合計 9人 10点

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