愛虐の卵 |
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グロテスク、残虐な表現を一部含みます。 これが男性の部屋なのだろうか、チリ一つなく鏡台もピカピカに磨かれている。 鏡には女子高生の姿が写り、身だしなみをを整えていた。イマドキの蝶をモチーフにした可愛らしいネクタイ、大胆なセーラーブレザーが特徴的、丈の短いチェックのスカート、とことんフレッシュに。 「これだったらママに怒られないわね」 うれしそうにつぶやき、制服の裾をただした。 私八神薫15歳、江戸蔵高校入学式。 江戸蔵高校は先進的な高校で、性同一障害を認め、制服を男女好きなほうを選ぶことの出来る高校だ。もちろんそれには制約があって、医師の診断書が必要なのだけど。 中学からの知り合いもいないし、ママの強い勧めもあってこの高校に決めた。人間関係を引く次ぐことが無いのはうれしいけど、やっぱり男子の視線が気にならないといえば嘘になる。 桜が満開の下、私は誇らしげなママと一緒に校門での記念撮影でうれしそうにはにかんだ笑顔を作る。男子生徒を見れば、ブスっとした顔ばかり、反抗期真っ盛りって感じ。 入学式数日後、 「食べる?」 私はスナック菓子を携えてさっき体育でペアを組んだメグにお菓子を薦めた。 「食べる食べる! っていうか薫って運動神経いいね、かっこよかったよ」 カッコイイという言葉はどこか複雑な私だけど、 「すぐ息上がっちゃうんだけどね、球技は得意なんだよ」 明るく答えられた。この子はイイ、無理に私を演じなくて気さくに話しかけれる雰囲気がある。 「ねえ折角仲良くなれたんだからさ、ちょっと聞きにくいこと聞いてもいい」 お菓子をぽりぽり食べながら目を見て話してくる、茶のみ話のような感じだ。 「内容によるけど~」 おおよその質問のFAQは出来ている、そんな感じで生きてきた。 「メグの彼氏がなんか薫のこと気になるみたいなんだ、どう思う?」 どう思うって、斜め上から過ぎて、どうなんだろう。 「ご、ごめんなさい」 私はどうしてかわからないけど頬を上気させて、謝ってしまった。折角出来た知り合いに嫌われたくない、視線をそらし右手を胸の前で硬く握る。 「ぷっぷぷ、面白い、面白い反応だよ薫、わたしたちいい友達になれそう」 よかった中学までおとこおんなとか、変態とかって虐められてきた私にはとても嬉しい。ちょっと変わっているだけで人は直ぐに奇異の目で見て来るもの、居場所が確保できたことはとても安心できる。 「それにしても胸おっきーね」 ゴクリと生唾を飲み込んで私の胸をしげしげとのぞき込んでくる、あんまし今まで言われたことないから、逆にコンプレックスに思ってたくらいだから。 「触ってみる?」 思わず声が大きくなっちゃったのか、周りの女子がぎょっとなってこっちもみてきた。しまった失敗したか…… 空気読めない発言でいじめに発展する事だってあるんだ、これで弾かれたらどうしよう。 引きつった笑顔の私の後ろに背の高い女の影がいて、 「ひゃあっ」 「ふーん、確かにでけぇな、柔らけえ」 男子も女子も見ている中、私は胸を揉みしだかれてかれていた。 「今日子大胆!」 嬉しそうな羨ましそな声を上げ顔を赤らめるメグだ。 「うわわわっ」 「ほれほれ~、どうだあ?」 絵的にヤバいかも、女子高生が女子高生の胸を後ろから揉みし抱くなんて、しかもみんなが見ている前で! 「発言に気ぃ付けろよ、テメエ結構顔可愛いんだからよ、男ども変な目で見てんだぜ」 ピタリと行為を止め、今日子が男子を睨みつける。 そそくさ、視線を逸らし、どこか居たたまれない男子が可愛くて面白かった。 「ま、あいさつ代わりだ、オレは鈴木今日子よろしくな」 第一印象はカッコよかった。 教室の空気ガラッと換えてくれたのが分かったから。 背の高い女の子、肌なんか抜けるように白く、顔が小さく、スタイル抜群! しかも女の子なのに自分ことオレなんて言っちゃう。 私は何だか高校が楽しく思えてきた、もしかしたら安心できる場所があるのかも…… 今日は月に一度の憂鬱な日だ。一生付き合っていかなくてはいけない、苦手というのが一番しっくりくる。でも止めてしまうと私の身体はおかしくなってしまう。変に身体は火照る氏し、汗が止まらなくなる。先生には骨がもろくなることもあるとかって脅された。 でもママが望んだことだから、私は従うほかないし。まあ今となってはしょうがないから、私はあまり考えずに江戸蔵病院にとぼとぼと歩いていく。 「数値的には落ち着いているね」 「でも、体育の授業で、息が上がっちゃって」 「……そりゃ君、お薬投与してれば当然だよ」 この医者との付き合いも長い、触れてはならないこともお互いに分っている。 「学校は楽しいです、いじめには合わなくてよかった」 …… 一瞬間が開く、学校が上手くいっていても家庭は問題ないのかと、 「そう、お母さんとは」 「上手くやっています」 確認だ、おかしくなっていないかとの、 「落ち着いている」 「ハイ」 息を吸い込み胸で止めた、向こうが何か言いかけた時、私は言っておくことがあった。 「先生この間の診断書、ありがとうございました。お陰で私、ゲイだってことで学校に居られることが出来まして、その、高校が楽しいんです」 …… 別に憐憫を誘うつもりなんてなくて、本音を言っただけなのに先生何か悲しそうな顔をしておられた、? 「もう君の場合、後戻りできないところに至ってから来たからね」 「……」いつもこの言葉で診察は終わるの。 「おーいメグ、今日子、お昼ご飯一緒に食べよーよ」 高校のお弁当の時間、メグと今日子を誘って一緒に食べるのだ。 「うおっやっぱテメエの弁当そーとー女子力たけーな、くっそ負けたわ」 女の子の癖に早弁が当たり前の今日子が感心する。 「ホントだ、なんか私の見られるの恥ずかしいわ~」 「ええ~そんなことないよ」 まあそんなこと言いながら、実はけっこう自慢だったりする。これはママから叩き込まれた。家庭料理はほぼ大体のことは出来るつもり。 それだけじゃ無い、家事全般ママから教わりスパルタ式にしごきにしごき抜かれた、裁縫だって得意、率先してやるようにしている。そうしないと折檻が怖いから。 「それよりもすこしで夏休みじゃん? バイトとかどうする?」とメグ。 「オレは部活で忙しいからな、バイトは多分しねえな、てかできねえ」お徳用2L麦茶をごくごく飲みながらプロテインをそのまま口に放り込みながらの今日子。 「私はどうしようかなあ、ママさえOKしてくれればなあ」 「別に今時反対する親なんていんのか、お前マザコンなの」 「ひとのママ馬鹿にしないでよね」 「えっいや、……ゴメン」 ママの話をされるのは複雑だ、でも逆らうなんて出来るわけがない。ママは嫌い、でも逆らったことなんて一度もないし、人からママを貶されるのは何故か嫌。 「ママ説得すればいいじゃん、女の子でもできる危なくないバイト選べば大丈夫だよ」 「そんな無理だよ、二人ともママのコト何も知らないで……」 ふっとしたことで記憶の蓋がずれることがある、今ちょうどその時のよう。 ママはいきなり反射的に私を平手打ちにして、何度も何度も私のコトを叩いた。前歯の乳歯なんか折れちゃったみたい、そう語るお婆ちゃんの目は決して私を見ようとしない。「おまえはおんなだぁ!」蹴り足の力は大人の本気、おなかの奥底の痛みは医者の先生がいうの、**内出血だって。 あの時はいつだったのだろうか? 覚えているのは私が一度だけ「俺」って言ってしまったときだけ。 「女の子が俺なんて口をきくんじゃない!」 ママは浮気して出て行ったパパを酷く憎んでいた、 「薫ちゃんは女の子、女の子なんだよぉぉぉ~~~!!」 その反動で男も憎んだ、薫が男の子であることを憎んだ、今だって徹底している、 「どうして、どうしてママのいう事が聞けないの!!!」 そういって私の腕を引っ張って行って、台所にあったぐつぐついっている焼けた鍋にわたしの手のひらを押し付けたの。今でも鼻の奥に皮膚の焼ける匂いがこびりついている。 どれくらいの時間か分からないけど、こういう時私は記憶が途切れてしまうらしい。 「わ、私、どのくらい、その、ぼーっとしてた?」 「?」 「いや、薫の言ってる意味が分からないんだけど」 会話が成立していないといった感じの今日子とメグ。 良かった、一瞬で済んだんだ。だんだん良くなっている証拠よ。でも気を付けなくちゃ。 下校途中私は悩んでいた。 「どうせだったら、薫と同じバイトしたいな」と言ってくれたメグの言葉。何だか楽しそう、初めてのバイト、やってみたい気持ちがある。 どうやったらママを説得できるだろうか? まともに言ったくらいでは絶対反対されて終わり。うーんと悩みながら、家に着くと玄関には男物の靴があった。 ママは離婚してから男を毛嫌いしてきたのだが、最近になって私に手が係らなくなったからなのか、ある男性と付き合いだしたらしい。子供としてはチョット複雑だけど、私に干渉が減るならその方がいいの。 だけどその男っていうのが私にはアレで苦手なタイプ。 オラオラってオーラが漂う、見た目かっこうは紳士なんだけど、威圧感が臭うの。 でも薫は閃いたわ、ママは私のいうことは聞こうとしないけれど、というよりは自分の母性を押し付けてくるけど、この男の事だったら聞くかもしれない。 家について、本音を言えば嫌だけれど、ママの彼氏の山田の横に座った。 最初山田もおっなんだこいつって顔をしていたけど、 「薫ってパパのこと覚えていないんだ、雰囲気だけでもいいから傍にいさせて」 とか言ったら鼻の下伸ばして、 「ん」 とか言っちゃってんの(笑)、この人どこ見ていってるのかしら、上から薫の胸ガン見してるのバレてるよ? だったらダメ押ししちゃうから。私はキッチンで夕飯の支度をするママに見えない様注意しながら、山田に胸を横から押し付け少し甘えた様にいう。 「ねえパパ、お願いがあるんだけど……」 それから薫は山田の側を離れ、ママの料理している傍ら、お風呂を沸かし、お客様である山田の着替えも準備し、調理器具を洗い、茶碗や箸や調味料なども食卓に並べた。 食事中ママは終始ご機嫌だ、山田の食べるのを嬉しそうに見ている。タイミングなら今だろう、私はそっと山田の左脇を肘でつついた。 「ん、んん。なあ愛心《あいこ》、娘も良い年頃だろ」 「貴方の娘よりは年下でしょ」 「バイトとかさせないのか?」 「とんでもない、この子まだ子供だわ」 絶対言うと思った、 「おれの娘はバイトしてたぞ、もうそのころには」 「この子にはまだ早いわ、あなたの娘でもないでしょ」 ああ、このままじゃメグと一緒にバイト出来ない。 「まあそうは言うけど、社会勉強だって必要じゃないか、少しは手を離してみなよ」 うんうんその通り! いいこと言うじゃん山田! 少し見直したよ。 言い合いになり、少し不機嫌になった二人。その隙を突いて私は山田の肩にしなだれ付くんだ。 「パパだったらどんなバイトだったら許してくれるの?」 「ちょっと薫、山田さんに失礼でしょ」 ママは私が山田の味方するより、山田が私の味方するのが気に食わない感じだ。ひえっ怖い。 「水商売……は駄目だな」 山田がママの顔色を伺いながら答える。 「コンビニなんかいいじゃないか、うちの店舗人手不足なんだ、どうだ?」 彼にとっては人手が要ればいいみたいな言い方ね、だったら…… 「ねえだったら薫の友達も一緒にどうかな? もちろん二人とも一生懸命働くし、友達だってことはいわないから」 そういってしなだれついた身体の、特に胸を山田に押し付ける。 「ちょっとコウちゃんに失礼でしょ、離れなさい薫、友達連れ立って採用せまるなんて有り得ないわよ」 何がコウちゃんよキモイわね、でも怒らせると怖いし。 「まあまあ母子家庭に育って来たんだ、父親のことが分からなくて当然だろう。ここは一つ、うちにあずけてみないか?」 結果私は初めて、本当に初めてママに欲求というものを通したのだ。それまでママの言うことに逆らえたことなんてなかった、ママの言うとおりにしてくれば怒られないし、それに従うことこそが薫の生きることが出来る全部だったし。 アルバイト中頼りに出来たのは薗部先輩だった、というよりシフトかぶったし。インターネット代金支払いのレジ操作が分からなかったから、先輩に教えてもらうため身体を密着したのが気に入らなかったみたい。 「薫ってさー男の子に興味あんの、あんでしょ」 バイト一週間目にして、初めてシフトがかぶった日、帰り道メグが私に聞いてくる。 「す、ストレートだね~」 メグは男女関係に関しては一切自分を偽ったり、遠慮をしない子だ。 彼氏居るっていうのに、よくもまあ私にヤキモチやけるよね。 職場でイケメンの薗部先輩と仲良くなって いることが気に食わないからって、 「全くモー、ホルスタインって品が無いんだから、モウモウ」よく言うわ~。 カチンッときた、誰が好き好んでこんな格好しているって言うわけ。私は性同一障害でもゲイではないし、この身体だって薬のせいなんだよ。 「誤解だよメグ、わたしは男の子なんかが好きなわけじゃない」 こんなときに正論って通じないんだよね、火に油注いでるようなもん。 「あんた女装子の癖になにゆってんのよ、ゲイのぶりっ子? きもいんだよ」 景色が歪むほどヒドイ言葉。 呪いだ、ママの呪いだ。どうして、どうして私にあんなお薬、薫に与えたの? 「とにかくお客さんに愛想振り振りすんのはいいけど、薗部先輩にブリブリすんのは止めろよな、このアバズレ!」 こういうことはハッキリいう子だ、私とは対照的。私はたじろいでしまう、ママからは教わらなかったし、自分でもよくわからない、言いたいことをはっきりと言えない癖がある。 ママは最近女性らしさの「色」を学びなさいと言う。ううん、盗みなさいって言う方が正しいね。でもそうすると友達のメグを敵に回す。 うーんと、なんていうかそれが私、薫なの。 バイトから帰り、クタクタの私は家の居間にごろんっと横たわる。隣にはママの彼氏の山田がテレビを見ていた。 「だらしない子ねえ、夕飯はそこにあるから食べちゃいなさい、ママちょと買い物行って来るからね」 「はーい」 気の無い返事をし、私はうつらうつら船を漕ぎ出してしまっていた。 異変に気が付いたのは直ぐだった。 山田はすぐ終わらせるつもりだったのだろうか? でなければあんなことしないよね。 「薫お前が悪いんだからな、悪いのはお前だ、俺にそうさせたのはお前だ、お前が俺に肌摺り寄せてさえ来なければこんなことにならなかったんだからな」 そういって私の制服を脱がせ始めた。ブレザーを、蝶ネクタイを、スカートを。 私は事態に気づき、必死で抵抗する。山田の顔を手の平で追い返し、「ママに言うよ!」と懸命に言う。それしか言えない 「お前は父親の愛情を知らないだけなんだ」 嘘だ、きっとママならそういう! 言ってくれる! 私はママの言うことを聞いてきた子。だから私の言うことだって聞いてくれる。ママに逆らわなければいい子なんだ。 「あっ」 乳房に山田の手が入った、必死に抵抗するけど、お薬の副作用で力が、敵わない。 それにしても凄い力、男ってこんな力あるんだ、薫だって……ちくしょう。 山田はそれから薫の下腹部に手を当てたところで、全身の動きを、まるで凍らせたように止めた。 「えっ、男?」 愛心ママは家を出てしばらくしてから財布を置き忘れたことに気が付いた。買い物に出ていながらこれでは意味ないじゃない。 ぶつぶつ言いながら、アパートの鍵をあけたところで、固まっているところの二人を目撃してしまった。 胸をはだけスカート下から、腕を入れられている薫は叫んだ、 「ママ!」 固まる三人だ。 状況からみて山田が私に手を付けようとしたことは明らかだった。 ばつの悪そうな山田の顔といったら…… 土足で家に上がりこんだママは私をかかえ、抱き起こしてから、 ぱしーーーんっ と薫の頬を叩いたんだ。 「この淫売! なにコウちゃんに手ぇ出してんだ」 えっどうして、ママは薫の味方じゃないの、ママの言うとおり女の子でいたよ、エストロゲン投与したの貴女でしょ、私山田なんかに色目使うわけ無いじゃない。 思ったことが言葉に出来ない、どういっていいのか分からない、グサリッと突き刺さった言葉が抜けない。 絶望ってこういうことを言うんだ、虚空に消えてしまいそう。息の仕方が分からない、もがき苦しみたいのに、身体が一ミリも動かせない。守って欲しいと望む存在からの仕打ち、どうして、どうしてそんなこと言うの、一生懸命女の子で居ようとしているじゃない。 身体の成長だって止まっちゃったみたいだし、骨格なんか女子になっちゃたし、女の子にだって興味が持てないし、いまだ精通だってしたこと無いんだよ。異性を好きになる気持ちってどんな感情なの、恋愛って楽しいの、薫には考えても分からないよ。ネットで検索しても意識を集中しても理解しずらいもの。 「そ、そうだよ。薫がオレに色目使おうとするから、か、からかってやっただけなんだ」 ぬけぬけとママに同調し、心にも思っていないことを言う。 「ほら見なさい!」 ママは山田と自分の感情をごちゃ混ぜにして、自分の見たい世界を繰り広げていた。 気が付いたときには家を飛び出してしまってた。 サバサバした性格の今日子だから話せたのかも知れない、だけど薫の身に起こった話の一部始終は二人を完全に沈黙させてしまったらしい。 私は気が付いたら、鈴木今日子の家についていたのだ。怖いことにその間の記憶がすっぽりと抜けていた、ママから酷い事をされると時々こうなってしまうことがある。 「つまり二次成長期前に、母親から女性ホルモン剤を飲まされていたってこと……か」 「うん」 自分の身に起こったことではあるけど、後悔とか悔しいとかの気持ちにはなれない。それはママの愛情でもあるのだから。ただママの愛情はぐいぐい押し付けてくる来ることが多くて、時々疲れてしまう。 「ほんとうに母親がそんなことをするかしら、、にわかに信じられない……心の底から気持ち悪くなりそうだわ」 そういうのは今日子の叔母さんの淳子さんだ、地域猫の活動で時々寄っているのだという。 「気が付いた時には大分女性化が進行していてね、そこでママは薫に告白してきたの」 「「……」」 告白されずそのまま飲み薬でホルモン剤を摂取するのは肝臓に負担がかかるからって、思い切って告白してきたの、ママはそういうところちゃんと考えてくれる。 「それで今では月に一度、注射器でいれてるのね」 淳子叔母さんは神妙な顔をしている、そんなに重い話なのだろうか。 「そんなに胸がでかくなったのは黄体ホルモンも摂取してるからなんだろ」 「そうよ、ママがしなさいっていうし、心配してくれてるの、でも今回の仕打ちは酷いよね?」 お互いに難しい顔をして淳子叔母さんと今日子は見つめあってしまう。 「ちょっとゴメン薫、叔母さんと二人で話させて」 何かヤヴァげな感じで、今日子が叔母さんを部屋の隅に引っ張ってしまった。 「地域猫で猫が増えすぎないように避妊手術とか去勢して回っているの、複雑な気持ちになってきちゃった……」 「いやいや叔母さん、そういうレベルの話じゃなくね、どっかの専門機関に通報した方がいいんじゃねえかってレベルだよ、いやマジに」 「でも母親の愛情とかも相当絡んできそうだしねえ」 「愛情ったってきもすぎだろう、超虐待ってレベルだぜ、子供の性奪っちゃうなんてさ」 「だけど下手に通報なんかして親子離れ離れにしちゃったら、あの子かわいそうじゃない」 「本人に凄まじいレベルでの虐待って意識薄そうだもんな、母性から来る愛情表現ってマジ信じ込んでる感じだし、母親もそのつもりでいる感じうけるし」 二人が話し込んでいる時にスマホを見ると、凄い数のメールが来ていた。 全てママからのものだ。 内容は薫の家出を心配し、すぐに連絡しなさいといったもので、10分ごとにおくってくるの。 ママはいつもこうだ、ぐいぐい自分を押し付けてくる。私が折れるまで絶対に諦めないで、ママの価値観を当てはめてくる。愛情を押し付けてくる。母性でがんじがらめにする。 薫は時々それが苦しい。 二人がひそひそ話しをしている間も、脅しにも似た文面で必死になって連絡しなさいというメールを読んでいると、ママを傷つけて申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。ママごめんなさい、薫が悪い子でした。 私は罪悪感に押しつぶされそうになりながら、ママへTELしてしまっていた。 「急に家を飛び出して心配するじゃないの!」 「ご、ごめんなさいママ」 「もう薫が襲われることは無いわ、安心しておうちに帰っていらっしゃい」 「え、山田さんは?」 「いたたまれないから別れてくれって、逃げ出しちゃったわ、男って弱いわね」 しまったママの彼氏と上手くいかない原因を薫は作ってしまったのだと思って私は動揺してしまう。 「そんな、酷い。折角の彼氏だったのに……」 薫さえあの場所にいなかったなら、ママの代わりにお使いに行っていれば、と考えると胸が痛んだ。折角ママが新しい彼氏を楽しみにしていたのに、薫が駄目にしてしまったのだ。 「縁が無かっただけよ、それより早く帰っていらっしゃい」 「許してくれるの?」 「許すどころか迎えに行ってあげるわ、私のほうこそ取り乱して、ごめんなさいね」 家出していたことなんかもうどうでもいいくらい嬉しかった。心配してくれるのってどれだけ安心できるというのか、身に滲みて分かる。嬉々として今日子の家の住所を教え、ママの到着を待つ。その時間の楽しいことといったら無いの、ずーっと続いて欲しい、これが永遠だったらどんなに素敵なのかしら。 「なあ叔母さん、オレやばい気がすんだ」 「あんたの気持ち分かるけど、私らが深入りしてもねえ ……」…… 猫のことは係われても、人のことになると奥手となってしまう。ペットのように人には接せられないものだ。 「もうすぐ、ママ迎えに来るって、今日子突然押しかけて本当にゴメンね」 それにしてもうれしい、嬉しさが隠せない、声が自然と大きくなってしまう。 「ん、ん~」 何か言いかけて、口に異物でもたまっているみたいな今日子だった。 「人に、子供に……去勢するなんて」 淳子叔母さんの顔は苦痛に歪んだ。 程なくして馨がママの愛心が家にやってきた、片手に洋菓子詰め合わせを持って。 「こんばんわ、夜分遅くに申し訳ありません」 「まあお母さん、娘さん心配でしたわよね」 今日子と叔母さんは複雑に歪んだ顔をしている。「娘さん」というところがやっぱり気になるんだろうな。 「ご迷惑をおかけいたしまして、あの、これはつまらないものですが……」 「いいえそんな気を使われなくても、今日子の友達なんですから」 愛心ママは今日子のお母さんの腕をぐいとつかんでなかば強引にその菓子包みを渡した、それから深く頭をさげ、しばらく頭を上げなかった。 親が頭を下げている姿はいたたまれないものだ、こういうの見せ付けられると私は凄く申し訳なくなってしまい、もっといい子でいなくちゃと思ってしまう。 「ママごめんなさい」 それでもママは頭を上げようとしない、 「もう家出なんかしないから、頭を上げて」 わたしが悪かったから、そんなに私を責めないで。 ようやくこうべを上げたままの目は赤く腫れていた、いっぱいの涙を溜め込んで。 「ママ」 気が付くと私はママに抱きついていた。 「もうこの子は心配かけて」 ママ私をぎゅうっと抱きしめてくれる、一条の涙まで流して。 それを見ていた今日子のママも思わずもらい泣きしてしまうが、今日子と淳子叔母さんは複雑な、おぞましげな表情で私達二人を見ていた。 帰り道、夏休みの話になる。 「ママは反対したでしょ」 コンビニのバイトの件のことだ。 「そんなにアルバイトしたいなら、ママが探してきてあげる、そこで面接受けなさい」 メグと一緒にアルバイトしたかったのだけれど、そこの経営者に襲われてしまってはもう反論は出来ないし。 でも本当にそれでいいのかしら。 「それからあの鈴木今日子さんって娘、友達として付き合うのどうかと思うわよ、あんな男みたいにガサツな口の女の子と一緒になって、ママ心配だわ」 止めて欲しい、これで何回目だろうか? ママは交友関係にも口を出してくる。男友達も作っては駄目、女の子の友達はこういうコじゃなきゃとやたら注文がうるさい。おかげで私は男の子とまともに会話したこともない。 多分それがママの狙いなんだ、男の子に恥ずかしがって会話もできない子を演出すれば、性同一障害を装えると、そんな事考えている節がある。 下手に反論なんかしようものなら感情的になって、一体どんな事されてしまうか、想像するだに恐ろしい。 「……うん、距離置く様にする」 これが私に言える精一杯の言葉。 このままでいいのだろうか、でもママの事は嫌いになんかなれないし。 ねっとりと絡みつくような温かさで全身を絡み取られ、身動きできないようなといっていいのかな、凄く窮屈で息苦しい。 『風邪をひかないように温めてあげているのよ、息苦しいの? だったら酸素マスクをつけてあげるわ』 その温かさは人肌に近い、寒さを感じたことは無い、むしろ心地よく暖かいわ。異性を抱く時の感覚とはこういう事をいうのかな。 『欲しいの? だったらママがしてあげるわ 他の誰かに取られるなんて許さない』 生暖かい子宮のような監獄。 夏休みのアルバイトとしてママはお洒落なカフェを見つけてきた。女の子の制服がとっても可愛い、とびっきり甘い香りのするカフェ。ママは確かにいいセンスをしているかもしれない、私の趣味とも相性が抜群に合う。 面接のときお願いしたことが一つだけあった。 「目いっぱいシフトに入れて下さい」 お金が欲しかったのではない、出来るだけママに逢わないようにしたいから、ママの拘束を逃れたいから。 文句を言われないように午前中は早起きして洗濯、炊飯、家事全般目いっぱい終わらせたし、勉強も頑張る。アルバイトの時間は夕方4時から10時まで、慣れないお仕事がんばったわ。家に帰ったら四の五の愚痴を聞かされる前に眠って仕舞えるからね、結局無駄な時間があるとママは私に干渉して来るんじゃないかって。 それと夏休みだけのアルバイトって事で、解放的にになったのか、新しい友達が出来たわ。 栞理ちゃんていうコで、すごく働き者の頑張り屋さん、私すぐ気に入っちゃった。学校も違うし、普段いえないことだって話せる関係が嬉しかった。 夏休み最後のアルバイトの日、ママに言われていたからその日で最後のバイトなので、その子に思い切って聞いてみた。 「薫ってホントは男の子なんだよ、気づいていた?」 「え、ん、何言ってんの」 目をぱちくりさせて、意味が通じてないって感じ。 「だから私、男の子なの」 「…………………………………………」 やっぱりこんなものなんだろうな、カミングアウトしてもさ、何か失った様な、 「まじで~~~~~~~~~!」 「!」 ちょっとびっくりした。 「ふつーに女の子としてしか、ってかほんと?」 「こんな最後に嘘ついてどーするってわけ」 絶対ママの前では言えない言葉だ。いった瞬間ママはキチガイになる、何をしだすか分からない。ママは頭の中で私を完全に女の子にしているんだから。 だけどもう別れちゃう友達には話してもいいんじゃないかな、夏休みの最後くらいね。 「お化粧だって栞理より上手だし、肌ってメッチャ白くてきめ細かいし、ごめんこんな事きいていいのかな」 大体予想は着くわ。 「触ってみる?」 新学期が始るのは気が重い、どうしても嫌だったら先生にママから言ってあげようか、などと心配してくれる。頼ってしまおうか…… なにってメグに顔合わすのが辛いから、だってアイツあんなひどいコト言ったし、多分山田とのことだって知ってる。 本音はママに頼りたいけど、それだけはしない方がいい気がした、何故だかわからないけれどそんな気がするのだ。 だって夏休み中、ママから離れている時間が長かっただけ、私は落ち着いていられるような気になれたから。 アレって思っちゃった、何がってメグの髪の毛の色が一段明るくなっていたから。 化粧も少し濃くなって、何だか大人びて見える。ピアスの穴増えてない? 「あっ薫、久しぶり、なんか大変だったんだってね」 なんて軽いノリ、あんたが言うふつー? でも可哀想なんて重く来られるよりはずっとマシ。可哀想と思っていないならやり直すこともできる。 「よすっ 薫」 今日子だ、なんか身体デカくなってない? 「こないだはありがとうね、ってかごめん」 今日子の家には随分迷惑をかけてしまった、ママには今日子と距離を取るなんて約束してしまったけど。 「ん~、なことあったっけ?」 こういうとこ、彼女は分かってるんだ。 「まあ、テメェ生きてるしな、少し明るいツラにもなったみたいだし、なんかあったらまた来いよ」 ママは嫌うけど、今日子は本当に有難い。そしてスゴイ、余計なこと言わない能力に長けている。時々言葉がたらないけども。 その日の下校、メグとガッコ帰りに寄ったマックで意外な人と鉢合わせになった。 「あ~~~薫、連絡先も教えてくれないで、こんなトコで逢うなんて」 「……栞理、どーしてここに」 「あ、両国の……制服、頭いーんだ、っていうか二人知り合いなの?」メグが栞理に尋ねた。 「夏休みのバイト先で、ちょっと」 答えてしまったのは私。 「「ふーん、そう……」」 何か頷きながら、栞理は薫の周りをグルグル回る。 「「?」」 「ねえ何か運命みたいなの感じちゃうの、私達付き合ってみない? 薫可愛いし、なんか好きになっちゃった」 「えっえええーーー」 声をあげて顔を赤くしたのはメグの方だった、なんでメグが。 「友達としてでしょ」 「バババッバカッ、薫あんた告白受けてんだよ!」 「えっそうなのですか」 どうしてか敬語になってしまい、おまけに聞いた先はメグの方になってしまった。 「ねえねえ今日子、昨日すごいもの見ちゃったんだ、聞いて聞いて」 「んだよ」 朝っぱらから、若干めんどくさそうな今日子だ。 「薫がねえ、何と女の子に告白受けていたんだよ!」 「はあ? てかなんて言うのか、そういうネタ好きだね~」 「あれー今日子反応うすいな~、超面白かったんだから、だって絵的にJK*JKなんだよきゃあ!」 「……なんかアイツ心配だなあ」…… 嫌な顔になる、何考えてるの? 「あ、噂をすれば、ひひひ」 私が教室に入ってきたところを見つけ、「彼女とケータイの番号とか交換してたじゃん、もう連絡とか取り合ってるんでしょ」と嬉しそうにまくし立てる。 「うんまあね」 それから今度の日曜渋谷のプラネタリウムにデート行くことになった事を報告すると、 「「お~~~」」 二人は喜んでくれる。 「あのさぁ……もしだよ、もしなんだけどさあ」 こんなコト聞いてしまってと考えると恥ずかしいやらくすぐったいやら。 「うんうん何でも聞いて聞いて」 楽しそーなメグ、人の恋バナ大好物なんだね。 「もし私みたいなお父さん……だったら子供どう思うかな」 「えーーーもう薫結婚なんか意識しちゃってんの!! 早すぎでしょ!」 「そ、そんなことないけど、もしだよ、私がお父さんになったとしたら、どう思うかなって」 「どう思うって」 そう言いかけて楽しい笑いが二人から消えて、何だか気まずい雰囲気になってしまう、でも聞いておきたい。男の子として生まれて来たのにママが望むからって無理して女装して生きてきて、ビタミン剤だって言われて女性ホルモン飲まされてしまい、気が付いたら取り返しがつかなくなってしまって、男性ホルモンの極端な低下で精通もしたこと無くて、自分を偽って生きてきて、そんな私に未来なんかあるんだろうかと、聞いておきたかった。 「や、やばい、……だろうな」 「子供ぐれちゃいそう……」 …… 「そか」 何だか涙出ちゃいそうになるのを堪えながら、私は無理して笑う。薫自身が言うのもなんだけどぎこちない笑い。 日曜日はメイクに相当気合を入れた、ありがちかもしれないけど鉄板の花柄ワンピース、 それとレースアップシューズでとことん甘く、大きめのトートバックには今日のお弁当のサンドイッチを詰め、飲み物は現地調達で身軽にしましょう。男らしくはもう一生難しいから、でも似合ってるしいいかな。 「バイトのときは良かった、制服の時は惚れちゃうくらいイケイケだったよ、私服の薫は超ガーリーだよ!」 よくわからない褒め言葉なんだかどうなんだか、言いながらわたしに抱き着いてくる栞理ちゃんだった。 意外といったら失礼なのかな、プラネタリウム見学は素敵!。浪漫チックな世界に二人して入り込める、ううん夢中になれた。星空の仲、栞理ちゃんが私の手に指を絡めて来た時はびっくりしちゃった。どうか心拍数がバレませんように…… ランチは渋谷駅から歩いて代々木公園で。私の持ってきたサンドイッチとから揚げと卵焼きにタコウインナーを喜んでくれたのがとっても嬉しい。 公園のイベントで蚤の市が開催されていてついでにそっちの方も見学してみる。意外だったのは彼女が東欧のタペストリーを気に入ってやたらスマホのカメラに収めていたこと、意外な趣味に驚くわ。もちろん後で私の収めた大正浪漫の数々の品々の写真をインスタで交換して楽しむの。デートというか、交際って思っていたよりたのしいかも。 3回目のデートではキスを済ませた。 4回目のデートでは思い切って薫の身の上を吐露してみた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「というわけで、薫には性欲みたいなの、ほっとんどないの」 そんな告白を受けた栞理ちゃんはニコニコ笑ったまま……いえより一層嬉しそうな顔になっていうわけ。 「なんだそんな事かあ」 (そ、そんな事って) 「女の子の薫だって可愛いじゃん」 「……」 この人はもしかしたら、ママと一緒の種類の人間かも知れない、そう気が付いた。 この娘は多分薫の中にある男の子の部分なんか全く見ていないんだ、懸命に演じてきた女の子の部分ばかり見ていて、私の心の疵ばかり見ているんだ。人を傷つけることに長けていて、それを胡麻化すことがうまい。それが楽しくて、疵が大好きで、決して治療しようとはしてくれない、膿んだ状態にしておくのがいいんだ。そして情けない私はきっとそれをどこかで受け入れていた。だからママや栞理ちゃんの様な人を引き付ける。 やっとここにきて私は気が付けた。 その夜のこと。 ママが寝静まったのを見計らい、私はゆっくり静かに起き上がる。 あらかじめ薬局で買い求めておいた貝印のカミソリを取り出し、その冷たい光沢を眺めた。 切った瞬間は熱かった、直ぐに左手から痺れるような快感が走る。もう一本、もう一本と連続して切ってしまう、やめられない。 一連の儀式のように、スマホの動画モードでその行為を取り、左手首をしっかり消毒して、ガーゼを当て包帯を巻き後処理をした。 それからその動画をラインを使い、栞理のもとに送り付けてやった。 こんなことしちゃいけないって分かっているけど、どうしてもしてしまう。呪縛のように逃れられない。かまって欲しい、甘えたくて仕方ない。視て栞理、ダメな薫を見て、疵を見て、ああ見られていると思うだけで全身がゾクゾクしてきちゃう。 翌朝、その左手の包帯に気付いたママ。 「まあ大変、お医者様に行かないと」 心配した振りしてるだろうけど、口元笑っているよママ、ホントは嬉しいんじゃないの? 薫の疵が好きなんでしょ、私にかまえるし、薫はママに甘えられる。 夕方には栞理からラインで画像が送られてきた、それと一緒にメッセージも。 ”薫ちゃんの強い気持ちが伝わりました、栞理も一緒に心中立《しんじゅうたて》したので見てください” 画像には血だら真っ赤に染まった栞理の腕と教室の机が写り出されていた。 「ああ、やっぱりこの娘、ママと本質的に同じなんだ」 画像を見て思わずうれしくなってしまい、同時に手首の傷あとから血が滲むほどそれをゴシゴシしごいた。どうしてうれしいのかがわかないけど嬉しいものはうれしいのだ。そしてそれがとても恐ろしい、身の毛がよだつ位だいっ嫌いなのに、一度くっつくともう離れられなくなってしまう魔力がある。 「痛い」のがいい、血が滲むのが華が咲いた よう、この娘が気持ちを共有してくれるのって可愛くて愛おしくなってきちゃう。ああもうダメ、薫は栞理ちゃんに心の底から惚れてしまいそう。 心を通わすって本当に素敵、彼女の瞳を舌で味わいたい、もっと心を通わせたくって仕方が無いの。私の舌を視るのってどんな味が臭うわけ? 音を嗅たい、匂いを見たい。 全身粘膜になりたい。 彼女もそうなっておしまいなさい。 身体が舌のように粘膜に、そうまるでなめくじのようになってしまいたい。雌雄同体のなめくじに。 駄目だ、薫は連鎖から逃れられない、これじゃ石の裏のなめくじのよう。この殻を出たい、甘えて居たくない。私はダメだ、なんて駄目な子なんだろう。いっそのこと死んでしまいたいのに真似事しか出来ない駄目な子なんだ。 ママに加えてこの娘まで、しんどい、しんどすぎる。どうか私に構わないで、薫に自由をちょうだい。 少しずつ、少しずつでいいから、人に甘えようとする癖を直していかなくては、人のお世話をすれば心の疵を見せれば、私が認められるわけではないということを分からなくては、ママや栞理からちょこっとずつ、ちょっとずつでいいから距離をとっていこう。 長い長い高校生活になるだろうけども、その間に私はこの殻を破るんだ、卵の殻を破る。殺されないように、生き残るのだ。ママはママ、薫は薫なの、大丈夫、きっとわたしは薫を救えるはず。 了 |
かもめ 2017年04月28日 20時14分24秒 公開 ■この作品の著作権は かもめ さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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合計 | 11人 | 120点 |
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