後出し厳禁! じゃんけん遊戯 |
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クラスメイトが一人休む → 給食のプリンが一つ余る。 これすなわち、戦争である。 「そのプリン、あたしがもらったーっ」 最初に名乗りを上げたのは、クラスの中心的な存在である五十嵐美月だった。 「うふふ。そのプリン、わたしも欲しいなぁ~」 ゆるふわ系の西園杏菜も声を上げる。 ほかのクラスメイトからは声が上がらない。 だが、美月と杏菜はどちらも譲る様子をみせなかった。 「ならば、するしかないね」 「うん。そうね~」 これはプリンを巡って繰り広げられる、六年四組の児童たちのジャンケンによる死闘の物語である。 「ジャンケンなら負けない」 「ふふふ。それはわたしも同じだよ~」 美月と杏菜はクラスメイトが見つめる中、教壇の前に立って対峙した。 二人が互いにプリンを譲らない以上、決着をつけるためにジャンケンが行われるのは必然だった。 「二本先に勝った方が勝ち、でいい?」 「いいわよぉ」 両者が互いに距離を取る。 クラスメイトはそれを食い入るように見つめる。美月と杏菜はクラスでも指折りの、共に西小学校のジャンケン四天王の一角を担っているほどの実力者だ。それゆえに、二人の勝負に割って入ろうとする豪の者は現れなかった。代わりに、その技を盗み見ようと、様々な思惑の籠った視線が向けられる。 そんな中、美月は両手を前に突き出すと、手のひらを外に向け、手の甲をお互いに合わせるようにし、その両腕を交差させる。そして両の指を結び合わせ下方向にひねり上げ、顔の前に持って行く。 クラスメイトから歓声が上がる中、美月はにやりと笑った。 (……見えたっ!) これぞ美月の能力。 ジャンケン限定で、相手の手がぴったり3分の1の確率で分かるのだ。グー・チョキ・パーで3分の1。当たり前の確率に思えるが、彼女の黄金の両指(ゴールデンダブルピース)から放たれるお告げは、確実に3分の1固定なのである。 つまり、1回2回と外れれば、3回目は必中なのだ。先に当たりが出れば、残りは必ずお告げとは異なる結果が待っている。だからこそ、それを逆手に取ることもできるのだ。 杏菜の最初の手はチョキ。 お告げの通りなら、グーを出せば勝てる。 だが外れてパーが出たら負けだ。 それを見越してチョキを出しても、杏菜の手がパーの可能性もある。 つまり、ノーヒント。 二本先取の三回勝負。一度の負けは許されるが、必殺の三回目を待たず敗北するおそれもある。 (ならば、ここで一気に勝負を掛けるっっ) 美月は構えた。 空気が鳴く。 そして両者が同時に動いた―― 「最初は……パーっっ!」 芸術的なタイミングで、美月は手のひらを広げた。 ジャンケンに反則はない。いかなる手も正当化されるのである。 ちなみに後出しは即、死である。 「……勝った……って、なっっ?」 美月の芸術的に開かれた右手が震えた。 杏菜の小さな手は、人差し指と中指が縦に開かれ、まるで美月の手のひらを今でも切り裂かんとばかりに突き出されていた。 チョキである。 「わーい。わたしの勝ちー」 「ひ、卑怯よっ! 最初はパーって言ったのに」 「言ったからだもん」 「くっ……」 ジャンケンに反則はない。いかなる手も正当化されるのである。 ちなみに後出しは即、死である。 かくして、杏菜が一本先取。 美月は追い込まれた。 プリンが涙を流しながら手を振って去っていく光景が脳裏に浮かぶ。 断固阻止! 第二回、ファァイッ! 美月は再び「黄金のジャンケンポーズ」を取る。 「……見えたっ」 杏菜の手はパー。 さっきの不意打ちチョキが神のお告げ通りの正解だったとすれば、残り二回は必ず外れる。 つまり次の杏菜の手は、グーかチョキ。 美月がグーを出せば、出会い頭の負けはない。 だが杏菜の手がグーの場合は、あいこだ。 ジャンケンにはリズムが重要である。あいこの後はすぐ手を繰り出さなければならない。それすなわち、黄金のポーズを再度取っている時間がないと言うことだ。 裏を狙ってパーを出してもチョキで負ける可能性は半分。危険すぎる。 (ならば、勝負は一つ。女は気合いの拳で勝つっっ) 美月は拳を握りしめた。 「最初はグー! ジャンケン、ポンっ!」 杏菜の手は馬鹿の一つ覚えのような、チョキ。 「うしっ。勝ったーっ!」 「うーん。負けちゃったかぁ」 杏菜が苦笑いを浮かべる。 これで一勝一敗の五分。黄金のポーズを持つ美月は有利だ。 けれど、杏菜は余裕の笑みを浮かべていた。 杏菜には特殊な能力がある。 人の心が読めるのだ。ただしジャンケン限定で。 しかも肝心の「グー」や「チョキ」などの手は、読めない。 それでも頭の使いようでは、十分すぎるほどの使える能力である。 ジャンケン四天王の一人、美月とは何度も死闘を繰り広げてきた。 そのたびに杏菜は、何度か美月の心を読んできた。そして、肝心の手は分からず読める心も限定されているが、断片的に伝わってくる情報から、美月にも特殊な能力が備わっていることを知った。 美月はあの黄金のポーズを以てして、三回一セットで相手の手を読めている。 杏菜はそれを把握している。 それなのになぜ一発勝負ではなく、美月に有利な、最大三回の勝負が行われる二本先取のルールで戦いを挑んだのか。 理由は簡単である。 (ふふふ。だって、相手の土俵に立って勝つのがジャンケンの楽しみだもん~) 杏菜もジャンケン四天王の一人。プライドがあるのだ。 「それじゃ、こっちも行くよ~」 杏菜は宣言すると両腕を前につきだした。 美月のように無駄に手首をひねる動作など必要としない。 つきだした両手を広げ、両手の人差し指と親指をくっつけ三角形にして、その隙間から相手をのぞき込むだけだ。 「出たっ。杏菜の『気の構え』! やつは本気だ」 「美月も黄金のポーズだ。両雄激突だぁぁ」 ギャラリーが騒ぐ。彼らもプリンは欲しいが、ジャンケン四天王に挑むほどの勇気は持ち合わせていなかった。ただ観戦を楽しむのみである。 そんな中、杏菜は両指の隙間から映し出した美月の「心」を読みとった。 【……見えた! 杏菜の手は馬鹿の一つ覚えみたいに「△△」か。けど今回のは外れ決定だから、来るとしたら「○○」か「××」。とりあえず「××」を出しておけば負けないけれど、一回前に杏菜があたしの「○○」で負けたことを考えると、「××」でくる可能性が高い? だとしたらここで勝負を掛けるか……?】 (ふふふ。美月ちゃん、心の声、ダダ漏れだよぉ) 杏菜はにやりと笑って考えを巡らす。 馬鹿の一つ覚え、一回前に、の声から、最初の読み取れなかった部分は、チョキに違いない。そして美月は、己の能力から、それ以外が出ると確信して勝負手を考えている。 さてさてどうしようかなぁ。 美月はパーかグーで悩んでいる。 セオリー通りなら絶対に負けないパーなのだが、あいこになる可能性が高い。あいこになったら「気の構え」はできず、連続勝負になる。そうなると、若干スピードに勝る美月が有利。 (わたしが『絶対に出さないはず』のチョキを出したらどうなっちゃうのかなぁ。世の中の法則が乱れちゃうのかなー) チョキを出せば勝てる可能性は高い。けれど美月はパーかグーで悩んでいるのだ。もしグーがくれば、杏菜の負けだ。 美月とは、今回のプリンだけでなく、これからもジャンケン死闘を繰り広げていくことになるだろう。だとしたら、彼女の能力を見切っているという切り札は、まだ隠しておいた方が得策だ。 (それなら、やっぱりここは……) そう杏菜が手を決めかける。 だが、そんなときだった。 二人の真剣ジャンケン勝負に横やりが入ったのだ。 「さてと。そろそろ、僕の出番かな」 「やはり来たっ。ヒカルだっ!」 「よっしゃ! そうこなくっちゃっ!」 ギャラリーと化したクラスメイトが騒ぎ立てる中、ゆっくりと教壇に向かって歩き出したのは、小柄な少年だった。 星空ヒカル。彼もまたジャンケン四天王の一人である。 「今更、参戦するわけ?」 杏菜と対峙していた美月が不満げに声を上げる。 乱入への不快感はあった。だがそれ以上に、四天王の一角であるヒカルに脅威を感じていた。 「大丈夫。もちろん後から勝負に加わるんだから、君たちはあと一つ、僕がプリンを手にするには、後二つ勝つという条件で構わないよ」 ヒカルが余裕の表情を見せながらあっさりと言う。それなら美月と杏菜たちがまだ有利であり、二本先取というルール通りでもあるので、問題はない。 ジャンケンはサシで行われるとは限らない。複数でも可能な勝負事だ。 ヒカルは、複数でのジャンケンにめっぽう強い。 とはいえ、サシの勝負になれば、ヒカルの実力は一般的な人間とさほど変わりはない。 いきなり一発で、二人同時に負けない限りは。 「……分かった。構わないわよ」 美月がうなずいた。 単純に一人増えたため、プリンにありつける可能性が二分の一から、三分の一に減ってしまったわけだが、その一方で、これは美月にとってチャンスでもあった。 三人勝負で一人が負け、勝った物同士でのもう一度勝負。それが最大二度繰り返される可能性が出てきたわけだ。 その数、四回。次でリセットされた回数を含めるとちょうど三回勝負分になる。つまりもう一度「黄金のポーズ」の真価が発揮できるということだ。 「ふふ。仕方ないわね~」 杏菜もうなずいた。 美月が承認してしまった以上、同じ四天王として勝負を断ることはプライドが許さなかった。 「いざっ」 「ジャンケン」 「ぽいっ!」 出された手は、「パー」「パー」、そして、「チョキ」 「やたっ。まずは僕の勝ちだね」 「ぐぅぅ」 美月はうめいた。 杏菜がチョキを出さないことは「見えて」いたのだから、あえてチョキを出せば、ヒカルの一人勝ちを阻止することができた。 だが同時にそれは、美月の一人負けの可能性もあったので、実行に移せなかったのだ。 その気持ちは杏菜も一緒だった。心を読む「気の構え」は大量の気を消費するうえ、対象は一人のみだ。それに頼れない以上、安全策のパーを出したのだが、それが裏目に出てしまった。 なお、最初美月が繰り出した「最初は、パー」は、別に「気の構え」で心を読んだわけではない。単純に予想できただけである。 「どうして後から勝負に加わったわけ?」 気落ちしているのを悟られないよう、美月はいつもの調子で尋ねる。 そんな美月の内心を知ってか知らずか、ヒカルはさらりとそれに答えた。 「直前まで迷ってたんだよ。明後日の給食のミニケーキに勝負を掛けようかどうかってね。明後日は、若葉さんの日。いつも重い若葉さんなら、きっと休むだろうから、ジャンケン必至だしね」 星空ヒカルの能力。 それはクラスメイト女子全員の生理周期を把握しているというものだ。 「すげー。さすがヒカルだぜっ」 「サイテー。星空くん、変態!」 「きゃぁぁ。でもそこがかっこいいの! 憧れるぅぅ」 そんなクラスメイトからの歓声と罵声を背中に浴びながら、ヒカルは考えを巡らした。 (さてと。まずは一つ勝ったけれど。あとはどこまで運が持つかな?) 彼にはクラスメイトの生理周期云々以外にも、ジャンケンに特化した能力が備わっていた。単純にジャンケンに限って「運が良い」のだ。 一対一の勝負なら、対戦相手に確固たる思惑がある限り、運要素が加わることは少ない。だが複数人の思惑が絡んでくると別だ。それが複雑に絡み合い、それぞれの意志とは別の「運」が絡んでくる。 それが三人以上でのジャンケン勝負での、ヒカルの強さの理由だ。 とはいえ、その「運」は時間がたてば回復するが、一方で使えば使うほど下がっていくのだ。 そしてそのことは、美月たちも把握していた。 「つまり、まだ不十分ってことね」 ヒカルの「運」はまだ十分に補充されていない。 それならまだチャンスはある。 四天王の一人である美月は、「黄金のポーズ」に頼らなくても、持ち前の反射神経と女の勘で、一定のジャンケン力(ぢから)を持っている。 運と女の勘。 それだったら、女の勘の方が上だと、女の勘が告げている。 「うふふ」 もっとも女の勘なら、美月より女子力の高い杏菜の方が上だ。 ヒカルはのほほんとしていて、心を読んでもまるで読まれるのを分かってガードしているのか、というくらいで、美月ほど把握しにくい。 けれど美月一人でも手が何となく分かれば、いきなり負けになることはない。 後は一対一の勝負になれば、女子力に掛けてもいいし、奥の手である「気の構え・弐式」を使って勝負に出ることもできる。 三人がそれぞれの思惑を抱きながら、教壇の上で対峙する。 それを、固唾を飲んで見守るクラスメイトたち。 そのときだった。 教室が震えた。 何か巨大な力を持ったものが、一歩一歩近づいてくる圧倒的な威圧感。 「……ま、まさか」 「奴が、来たのか……?」 クラスメイトが震撼する中、ゆっくりと教室の後ろの扉が開いた。 「よぉ。待たせたな」 「うぁぁっぉぉぉっ」 歓声が響く。 「中井が来たぞっ」 姿を見せた男子の名は、中井竜二。 言わずと知れた、ジャンケン四天王の筆頭だ。 「や、休みじゃなかったのかい?」 ヒカルが震えた声を出す。 満を持して自分が登場したと思っていたのに、まさかの後出しで、真打ち登場だ。 ちなみにジャンケンの後出しは即、死である。 「ふっ。ジャンケンが行われると知って、骨折なんかで休んでなんかいられるかよ」 竜二が不敵に笑う。彼の足には大きなギブスが巻き付けられているが、ジャンケンに必要な両腕は健在だ。 中井竜二。その圧倒的な火力と速度、そして練度から「戦艦(バトルシップ)」の異名を持つジャンケンの覇王だ。 美月たち三人を加えて四天王と呼ばれつつも、実際は彼が頭一つ抜きんでているのが実状だ。 とはいえ、美月にもプライドがある。なにより愛しのプリンちゃんが待っている。 「いいじゃん。相手にとって不足なしっ」 美月がきっぱりと言い切って、黄金ポーズの構えの準備に入る。 だがいつもと違った。 美月は両足を軽く広げると、ライバルたちに背を向けたのだ。 「ま、まさか」 「あれをやるのかっ?」 黄金のポーズ×黄金の二重。 黄金のポーズのまま、前に屈み込み両股の隙間から相手を覗き込むことによって、複数の相手の手を、二回に一回の確立で読むことができるのだ。 もっとも、頭が逆さまになるので血が上って、ただでさえ単純な美月の思考能力が低下するという欠点もあるが。 「パンツ見えてるぞ」 「ぜんぜん色気がないけどな!」 ついでにこのポーズにはこんな欠点もあったりする。あまり気にしてないけど。 「ふふふ。面白くなってきたねー」 捨て身の奥の手を使ってきた美月を見て杏菜が笑う。 そして手の指を合わせた。 ただし、いつもの人差し指と親指のポーズではなく、五本の指をすべて合わせた禁断のポーズ。 「こ、これはっ。杏菜もやるのかっ?」 「弐式、来たーっ!」 「二本の指が五本の指に代わって、2.5倍、それが両手になることで2.5倍×2.5倍、併せて、6.25倍のパワーだぁぁ」 「……まさかそれを使ってくるなんてね」 パンツを見せながら、美月が驚きの声を上げる。 「ふふ。負けられないからねー」 増えた指の隙間の数の分だけ、「読める」能力が強化され、あいこになったときの次の一手が何になるかという考えまでも、分かるのだ。 もっとも体力をさらに消耗するので、「体育1」の杏菜にとっては、あまり使用したくない、文字通りの奥の手だった。 「複数戦なら、僕にも利があるからね。負けないよ」 ヒカルが構える。美月と杏菜が奥の手を繰り出して来た一方で、彼はいつもと変わらぬ構えで、まだ余裕が見られた。 奥の手をまだ隠し持っているような、底の見えない笑みを浮かべている。 そんな三人の動作を不敵に見下ろしながら、竜二が尋ねた。 「ところで最後に聞かせてくれ。これは何を掛けた勝負なんだ?」 「え? 一人休んで余った、給食のプリンなんだけど」 何を今更、と言った感じで美月が答える。パンツをみせながら。 「ん? 一人休んで一つ余ったってことは……」 「それ俺のプリンじゃん」 ――完―― |
水守中也 2016年12月31日 21時34分08秒 公開 ■この作品の著作権は 水守中也 さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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