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※この作品には性的描写が含まれています。
18歳未満の方、及びそういった表現が苦手な方はご遠慮ください。
童貞を捨てるために風俗に行ったときの話をしようと思う。
きっかけは大したものじゃなかった、と思う。もしかしたら、まともに女の子と会話できないままヤラハタになってしまったせいで、永遠に彼女が出来ないんじゃないかという危機感に襲われたからかもしれない。もしくは、若気の至りとでも言おうか。周囲の人間が次々と彼女を作り初体験を済ませるなか、年齢=彼女いない歴=童貞歴の方程式が成り立ってしまうのはプライドが許さなかったのかもしれない。
見栄というものは怖い。駅やスーパーでブサイクなカップルを見かけた時の「あんなブサイクとよくセックスする気になるな、お互いに」なんて居丈高な態度は、傍から見れば高望みも甚だしいと知ることになるのは後の話である。ほっといても時間が解決してくれるなどと考えていたが、ヒマな時間に勉強するでもなく、自己研鑽するでもなく、ひたすらオナニーしているような男に女神が微笑むはずもないのに。
と、当時を振り返りいろいろと理由を探してはみたが、結局のところ性欲のありあまった独り身が秋の寂しさに負けてしまった、という一言で済ませたい。
射精するまでをサービスとしている風俗は数あれど、セックスができる風俗はソープランドが一般的だ。ソープランドのメッカは吉原・すすきの・中洲あたりが有名だが、関東在住の貧乏学生がすすきの・中洲まで行けるはずもなく、まして高級のイメージで敷居の高い吉原など言わずもがなだった。そこで白羽の矢が立ったのが川崎である。調べるまで知らなかったが、ソープランドの質・数は前述の都市に負けず劣らずらしい。
ということで、事前に店舗の下調べをして川崎に向かった。駅に着くと繁華街へ一直線。方向感覚に自信はないが、迷うことなく店の近くまで来られた。エロスを原動力にすると実力以上の力を発揮できると身をもって体感した。地図上は人通りが少ないわき道に店舗があるとはいえ、あからさまに大通りから逸れていくのは勇気が必要だった。被害妄想も甚だしいとわかってはいるのだが、衆目を一身に集める気がして羞恥心が湧き上がってくる。
特に、カップルにその瞬間を見られたときのことを想像するとやるせなくなった。他人の一大決心など露知らず、絶対二人して俺のことをバカにするんだろうなと思う。そんなマイナス思考に苛まれながらも、さも迷ってますという体で大通りを行ったり来たりし、人がいなくなった瞬間を見計らってわき道に逸れた。
店舗の入り口はブロック塀で隠れていた。人目につきにくくするための配慮だろう。駆け足気味に店に入る。
「いらっしゃいませ」
ちんけなカウンター越しに俺を迎えてくれた店員は、サラリーマン然とした黒服だった。こういう店はヤクザが取り仕切っているものだから、店員も普通ではない強面の人間が出てくると思っていたが、なんてことない風体の男が応対してくれたので拍子抜けした。いや、見た目がまんまの男が出てきてもそれはそれで困るんだけども。
「お客様、ご予約はされてますか?」
「いえ」
「ご指名はどうしますか?」
「……いや、大丈夫です」
自分好みの女の子を指名するには、二千円追加で支払う必要がある。先にネタバレしてしまうが、ここでケチったのが失敗だった。指名しないで入店することをフリーと言い、どんな子が接客してくれるかわからない。
後に出会った全国風俗遊戯連盟会長(自称)から聞いて知ったことだが、「ソープでフリーは止めた方がいい」というのは常識らしい。人気嬢はみんな予約で埋まっているため、フリーの接客に当たるのは残り物の人気の無い嬢だから――というのが理由だ。説得力のある目からウロコの話だった。情報の海と呼ばれるネットだが、本当に知りたい情報は書いていないと身を持って思い知った。
「では、当店前金制となっておりますので先に料金をお支払いください」
黒服の慇懃な口調に促されるまま金を支払った。60分総額2万7000円。家電の一つでも買える金額だが、あまりに安すぎてブサイクなババアが出てきても困るので奮発した。ちなみにこれでもソープの相場としては普通らしい。
「それでは、準備ができましたらお呼びしますのでそちらの待合室でお待ちください」
よく見ると、奥へ続く通路の途中にのれんで仕切られた部屋があった。黒服から番号札を受け取り、待合室に入る。
思っていたより待合室は広々としていた。設置された長イスに先客が二人。一定の距離を取って俺は腰掛けた。客同士の会話もなく、待合室にはテレビの音だけが響いていた。暇つぶしにはマンガ雑誌以外に、もちろんエロ本が用意してあった。
余談だが、なぜ風俗店に置いてあるのはヤングなんちゃらやモーニングのような青年誌ではなく、ジャンプやマガジンといった少年誌なのだろうか。子供の頃の夢を砕かれた人間たちが集まる掃溜めにわざわざ少年誌を置くのはどう考えてもあてつけなんじゃないだろうか。
それはさておき。初体験を間近に控え、緊張で心拍数が上がり始めた。落ち着こうとタバコに火をつけ、あらためて先客の様子を確認する。白髪交じりの小汚いオッサンと、小太りで禿げあがったメガネのオッサン。おそらく二人とも四十代中盤で、俺だけが突出して若い。嘘か真か、風俗の待合室には隠しカメラが設置してあって風俗嬢も客をある程度選べるようになっているらしい。モテるような容姿ではないと自覚してはいるが、風俗嬢が客を選べる立場なら流石にコイツらよりは俺を選ぶだろうという謎の優越感に浸る。
「番号札10番でお待ちのお客様」
タバコの火をもみ消したあたりで俺の番号が呼ばれる。先客を差し置いて自分が呼ばれたことに驚くが、他の二人は特に先を越されて怒るような素振りを見せない。予約か指名の客ということだろう。
「そちらの通路奥の階段で女の子がお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
番号札を渡すと、黒服は丁重に頭を下げた。案内どおりに通路を進んでいく。ちょうど階段は物陰になっていて見えないようになっている。どんな子が接客してくれるのか、開けてびっくり見て楽しみで粋な建築構造だと思う。
曲がり角で迎えてくれる人影が見えた。この後のあんなことやこんなことを想像するだけで胸が高鳴り、自然と勇み足になる。
「こんにちは」
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03ほも
2016年12月30日 23時35分00秒 公開 ■この作品の著作権は 03ほも さんにあります。無断転載は禁止です。
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- ◆キャッチコピー:インフルエンザなんか嫌いだ
◆作者コメント:
運営の皆様、冬企画開催ありがとうございます&お疲れ様です。
細菌には強いけどウイルスにはめっぽう弱い体質の作者が書きました。拙い作品ですが楽しんで頂ければ幸いです。
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