子猫と咲子 |
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「あら、かわいい子猫ね。サトル君のネコなの?」 ご主人に、想い人が声をかける。 「そうだよ、咲子ちゃん。今朝、この公園で拾ったんだ」 ご主人は想い人に吾輩をそう紹介した。 お二人の仲を取り持つのが吾輩の使命だ。 吾輩はそう決心した。 ************ 吾輩は子猫である。名前は失くした。 かつて大魔法使いに造られた使い魔、それが吾輩である。 昔を語るのは、むなしいものだ。往年の吾輩は大魔法使いの命令に従い、闇夜に敵の軍勢を飲みこみ、全滅させる魔力をふるった。 そんなことも、かつてはあった。 しかし、それは過去の夢だ。 英雄伝説にかたられる魔法使いは世を去った。 主(あるじ)を失い吾輩は魔力を手にする術(すべ)を絶たれた。 いまではこの身もやせ細り死にゆく時を待つばかり。残る魔力はもはや無い。夏のまばゆい朝日を浴びれば使い魔の身は砕け散る。 吾輩は弱った体に鞭うって朝日に向かって立ち上がった。 朝日をさえぎる者がいた。年端もゆかぬ若者だった。 ここは都会の小公園だ。若者は公園を通り抜けようとしていた。 吾輩と若者の目が合った。吾輩は効果がないと知りつつ若者にたいして念話を送った。 「このままでは吾輩は消えて無くなる。もしも契約の儀を知るならば、吾輩は汝(なんじ)の使い魔となろう」 この時代に使い魔との契約の儀を知る者はいない。吾輩は思わずつぶやいた。 「無駄なことを言った」 しかし若者は手を差しのべて吾輩の体を持ち上げた。 「何か今すぐ食べさせないと午後までとても持たないな」 若者は通学カバンからサンドイッチを取り出した。 「この世の物なら、吾輩には食えぬぞ」 そんな吾輩の言葉を無視して若者は一人つぶやいた。 「食べる体力なさそうか」 若者はサンドイッチを口にして牛乳パックにストローを刺した。ミルクを含んで噛み砕く。 「即席の離乳食だが、食うか?」 吾輩は食事を舐めとって若者の指に牙をたてた。 「いてて、そんなに慌てるなよ。あ~あ、血がにじんだ」 若者は吾輩を離さなかった。 乳と唾液、卵と肉片、術者の鮮血。 そして使い魔と術者の接触。 契約の義はとどこおりなく行われた。 吾輩は深く奇跡に感謝した。 「飲むか?」 若者が牛乳パックのストローを勧める。 術者のあたえる食物だ。魔力の元になる食事。吾輩は必死でストローを吸った。二百数十年ぶりの食事だった。 「すげえな、全部飲んじゃったよ」 若者あらためご主人が公園の時計の時刻に気づいた。 「早めに家をでたのに、こんな時間か」 ご主人は足早に学校を目指す。吾輩も足早に後を追う。 校門でご主人が吾輩へと振り返る。 「校内は動物の持ち込み禁止なんだ。悪いな」 了解したという意思をしめして吾輩は小さくうなずいた。 「ニャア」 と、小声で鳴いてみせる。 「お前、賢いな」 吾輩はご主人に褒められた。 ************** 「へえ~、そんなことがあったんだ。だけどこの子は毛並みがいいね。死にかけだったとは思えないわ」 咲子様はご主人に語る。ご主人は咲子様に答える。 「まだ腹ペコのはずさ。さあ、購買で買った魚肉ソーセージだぜ、食うか?」 ご主人は小さなカケラをちぎり取る。それを吾輩の前に置いた。吾輩は軽くジャンプしてソーセージの本体にかじりついた。 「ほんとにお腹がすいてたのね。あら、凄い食べっぷり」 吾輩は咲子様を感心させながら、たちまち魚肉ソーセージをたいらげた。 「よくこんな小さい体に入ったわね」 咲子様の好感度があがったようだ。 「ねえ、抱いてもいいかしら」 咲子様はそうおっしゃった。予想のとおりだ。 吾輩としては咲子様がご主人に抱かれて欲しいのだが。 「うわあ、気持ちいい。すてきな毛並みねぇ」 使い魔なれば当然のことだ。 「肉球に触ってもいいかしら。わあ、ぷにょぷにょして気持ちいいわァ」 吾輩の脳裏に、かつて後宮の美女たちに取り入って国を傾ける陰謀に加担したことが思い浮かんだ。 快楽で人を操れる。使い魔は人を操ることができる。 吾輩はご主人様に念話を送った。 「吾輩の魔力は復活しつつあります。第二形態のご指示があれば受けられますぞ」 ご主人様は力ある言葉を口にされた。 「肉球が気持ちいいのか。それなら吸盤!」 な、な、な、なんと、よりにもよって吸盤ですと! 吾輩の肉球がパックリと割れて中から吸盤が盛りあがる。そのまま毛皮がクルリと剥ける。 吾輩は吸盤だらけのプニプニした生き物へと姿を変えた。 そのまま咲子様の玉のお肌にチュパチュパと吸いつく。 「うわわわ、すんごく気持ちいいわァ!」 咲子様にはご好評のようだ。 「どれどれ?」 ご主人も吾輩に手を伸ばす。 チュパ、チュパ、チュパ。 「本当だ。凄く気持ちいいね」 チュパ、チュパ。 「吸盤の肉球って、ソフトボールみたいに弾力があるんだね」 ご主人様。 それは違います。 ソフトボールは咲子様の胸についてるのですぞ。 「ああ、気持ちいい! すてきィ」 咲子様がよろしいのなら、吾輩からは何も申し上げませぬ。 「この猫の名前はなんていうの?」 咲子様、ナイスなご質問ですな。 吾輩には名前がまだない。 ご主人様、使い魔の名前はきわめて重要でありますぞ。 良き名を吾輩に選んでくだされ。 「タコ。いまそう決めた」 ぶふぁァァァ。タコですと。 半分ネコではないですか。 吾輩は使い魔の分際ですこし増長したようだった。 敵の接近に気づくのが遅れた。 「おお、なんかやってるぞ。みんな見にこい。すげえぞ」 幼稚園児の群れだった。 幼児には魔を見破る者がいる。 まずいな。 吾輩はあわててネコをかぶった。 くるりと毛皮でおおわれる。 咲子様がスリスリと吾輩の背中をなでてくださる。 「フニャ~」 思わず猫なで声がでる。 「なんだ、つまんねえ。胸を揉んでるんじゃねえのか」 うるさいぞ、マセガキどもが。 ご主人様、何か言ってやってください。 「それにしても、えらい恰好だな」 ご主人様は咲子様のブラウスの中に頭をつっこみジタバタしている吾輩を優しく取り出してくださった。 「チェッ、だったら、チュパ、チュパ、して見せろよ」 だまれ、マセガキどもめ。 チュパ、チュパなら吾輩がさんざんお二人にしてさしあげたぞ。 「子供たちって無邪気だね」 「そうね無邪気ね」 吾輩には邪気に満ち満ちてるようにしか見えぬ。 広い心でお二人はマセガキどもの無礼を許した。 すると、今度はマセガキどもが吾輩を狙って狩りの輪をつくった。 尻尾をつかんで振り回す気だった。 うっかり奴らに捕まれば冗談ではすまぬ。 「ご主人様、ご無礼つかまつる」 心で謝り吾輩はヒラリと主人の肩にのる。 頭の上へと避難する。 ここにいれば汝らの魔手も我には届くまい。 「おぉォ~、見事な体さばきね。凄いわ~」 咲子様が手をたたく。 吾輩の技が受けたようだ。 「チェッ、つまんねえの!」 幼稚園児のマセガキどもは興味をなくして立ち去った。 お二人は園児を見送った。 それから互いの目が合った。 咲子様はためらって、恥ずかしそうにご主人に告げる。 「あの、よかったらだけど、その子猫に会いにサトル君の家に遊びにいってもいい?」 「もちろん!」 「ニャア!」 我らの返事がきれいにハモった。 吾輩の心は使命を達成した喜びに満たされた。 「じゃあ、タコも元気でね」 咲子様は微笑んだ。 真夏の太陽のようにまばゆい笑顔だった。 (次回「吾輩はタコである」に続く!?) |
朱鷺ミチル 2016年06月12日 22時14分40秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺ミチル さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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