夏の回送バス |
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遠足のバスは海岸線を後にした。エンジン音が高まり山道を登る。 混み合うバスの車内では級友たちが顔を合わせた。久しぶりの再会で皆は夏休みの出来事を大声で語り合っていた。 委員チョはきついメガネであちこちをにらみ車内のみんなを監視している。僕をにらむ回数が多いのは、たぶん気のせいなんだろうな。 後部座席に二人ならんで花子と香(かおる)が眠り込んでいる。二人ともに遠足にゆくのがうれしくて昨夜はきっと寝てないのだろう。 長い髪が前にたれて二人は貞子のように見えた。バスが揺れると二人もゆれる。シンクロ貞子のうごめく様は、なんだかとっても微笑ましい。 委員チョはまた僕をにらんだ。 遠足委員の作ったパンフにいろんな歌が載っている。みんなで順番に次々と歌った。 アンパンマンの歌が皆にうけた。 自分の歌う番になると誰もがアンパンマンの歌を選んだ。みんなで何度も、何度も歌った。 峠でバスが停車した。 級友が次々と僕に話しかける。 「楽しかったな、竹内」 「俺のことを忘れるなよ」 「すてきな思い出をたくさん作って、あとで皆に聞かせてね」 「じゃあ、さよならだ」 皆は口々に「さよなら」と言った。 バスの外に僕は押し出される。 あわてて僕は皆に言った。 「まってよ、僕も連れていってよ」 皆は僕に応えて言った。 「お前は残れ」 「後から来いよ」 「忘れないでね」 「いつまでも待ってるから」 「私も降りるわ」 委員チョが言った。 皆は委員チョを引きとめる。 「待てよ委員チョ、それは無理だよ」 「残ったって良いことはないわ」 そんな皆に委員チョが答えた。 「私が一緒でないと竹内君がバスから降りないから」 河野が皆のかわりに言った。 「委員チョは竹内が好きだから、ほっとけないよな」 ドキリとした。 そんなの知らなかったよ。 僕は委員チョに手を引かれ、背中をみんなに押されて、バスの外へと降りたった。なぜか、みんなの手はひどく冷たかった。 バスが走り始める。 僕と委員チョの二人を残して遠足のバスが去ってゆく 僕はバスを追いかけた。 バスには「回送」の表示がでていた。 白い霧が山肌をくだってバスの姿を覆い隠した。 気が付くと僕はベッドに寝ていた。 体がこわばり、あちこちが痛い。 腕にいっぱい包帯が巻かれていた。 ビンからのびたビニールの管が僕の腕につながっている。顔に張りつくチューブの穴から風が鼻のなかへと吹きこむ。 「目が覚めたの、よかったァ!」 僕の腕を強く握って、おかあさんが泣き崩れた。 それからベッドで眠りについた。 お医者さんの声が聞こえる。 「助かる見込みはありません。死んでいて当然、生きてるのがありえない状態です」 すすり泣いているのは委員チョのおかあさんだった。 僕は立ち上がって隣のベッドに近寄った。 委員チョはビニールのマスクをしていた。シューシューと風がマスクから噴き出している。 メガネをはずした委員チョは、とても優しい顔をしていた。 「ありがとう、委員チョ。僕のために残ってくれて」 両手で委員チョの手を軽くにぎった。 委員チョの閉じた目には涙が浮かんでいた。委員チョがちょっと微笑んだ気がした。 それから委員チョの鼓動をつげる電子音がゆっくりになっていった。警告の電子音が部屋に響いた。 看護師さんが部屋にとびこんできた。それからお医者さんがやってきた。 僕は看護師さんに手をひかれて部屋の外へと連れ出された。 「ありがとう、委員チョ」 部屋の扉をぬけるとき、僕は委員チョにまた呼びかけた。 バスは海に飲まれたそうだ。僕一人だけが助かった。 殺風景な部屋のなかでカウンセラーのお姉さんが僕に向かってこう聞いた。 「自分だけ生きているのは辛くない?」 僕は知ってる。死んだ仲間はみんな優しく僕を待ってる。 「大丈夫です」 僕はお姉さんの瞳を見つめて答える。 「これからたくさん思い出を作って、待ってるみんなに届けます」 (「夏の会葬バス」 了) |
朱鷺ミチル 2016年06月12日 10時35分11秒 公開 ■この作品の著作権は 朱鷺ミチル さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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