透明な君と、旅の終わりに。 |
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僕は、星空の下、その道をただ進んだ。 僕の旅は、もうすぐ終わる。 目の前に続くのは、草原に浮かぶような砂利道。 一歩、一歩進む度に、砂利を踏むざらついた音が響く。 そして、真正面に、そびえるのは。 高く、無骨な、岩山だった。 ここは、北の果て。 数日前に、最北端の街を抜けて、今はあの山へと、僕は向かっている。 長い、旅だった。 あの家を出たのがいつだったのか、僕はもう覚えていない。 ただ、確実に、一年は経っているだろう。もしかしたら、二年ほどかかってしまったのかもしれない。 僕が住んでいたのは、ここからは遥か遠い、南の小さな村だった。 ある人と、住んでいた。 僕は、胸元で揺れるペンダントに手をやる。青い宝石が嵌っている、銀色のペンダント。 今はもう、眩しいほどの輝きを持ってはいないのだけれど、それでも、綺麗だった。 小さく息を吐いてから、僕はペンダントから手を離す。 前を見据え、長い道を、一人きりで歩いていく。それだけに、集中する。 先ほど振り返ってみたのだが、もう後ろに街は見えなかった。そして、誰もいなかった。ただただ、青い草原が続くだけだった。 山に近づくにつれ、草原は枯れた大地へと変化していく。木は、今のところ点々と見えるが、山の周囲にはきっとないのだろう。 山自身もまた、木の一本も生やさない、枯れた山だった。 ……山も、川も、草も、すべてが生きている。 あの人は、そう言っていたけれど、あの山が生きているとは、到底思えなかった。 少し先の道沿いにある一本の木が、山から吹いてくる風に揺れていた。 ……今夜は、あそこで少し休もう。 そんなことを決めながら、僕は長い砂利道を歩いた。 ◆ ――声が聞こえる。 どこかで聞いたことのあるような、懐かしい声。 夢を見ている、と直感的に分かった。 ちゃり、と、聞き慣れた金属の音が聞こえる。 これは、ペンダントの鎖の音。 あの人の姿が、一瞬、見えて。 思わず僕は、その姿に手を伸ばしかける。 でも、届くことはなかった。 おぼろげにゆらいだ世界の向こうに、あの人は、消えてしまった。 名前を、呼んだ。 あの人の名前は、痛いほどに、口が、心が、魂が、憶えている。 何度呼んだかも数えることのできない、その名前を、いくら呼んでも、返事が返ってくることはなかった。 そしてまた、僕がその声で名前を呼ばれることももう、ない。 誰もいなくなった空間。 何かが、目の前で瞬いた。 僕はそれを眺め、それを引き金として、少しずつ夢の世界から離れていく。 夢の終わる、その間際。 僕は、あの人のために、ここまで来た。 その旅も、本当にあと、もうすこしで終わる。 何があっても、あの人のために。 僕は、それを果たそう。 そう思うと同時に、夢からは覚めたはずなのに、また深い眠りへと落ちていく。 けれど、それからは夢を見なかったのか、次の瞬間と呼べるほどすぐに、また眠りから浮き上がってくる。でもきっと、先ほどの夢からはだいぶ時間が経っているはずだ。 浅い眠りの中、心地よく、懐かしい香りがしたような気がした。 その数秒後に、おぼろげな浮遊感は消え、はっきりと意識が覚醒していく。 そして、目を開けた。 眩しい朝の太陽が、僕の視線の先にあった。 その光が目に染みて、少しだけ目を細めてから、木の幹に寄りかかっていた背中を起こす。 と、そこで僕は、肩にかかる僅かな気配を感じて、首を横に動かした。 「……え」 かくん、と。 それが、僕の肩から落ちて、視界に入る。 白く長い髪。それがはらりと、地面にこぼれるのが見えた 「だ……え? どういうこと……」 どう見ても人だった。大人か子どもかもよくわからない。顔は見えないが、なんとなく少女のような気もした。僕がここについた時は、絶対に彼女はいなかったはずだけど。 僕はとりあえず、未だ僕に寄りかかっている彼女の肩に恐る恐る、触れてみる。 見たことのない服を着ていた。白を基調とした透き通るようなその衣服は、彼女が儚い存在であることを表しているように見えた。 触れたら、消えてしまいそうで。 僕の指先が彼女に触れても、目をさますことはなかった。 もちろん、消えることもない。 僕はそのまま両手で彼女を数センチ浮かせて、そのまま少し移動する。 その次に、彼女を慎重に地面に横たえた。 「――なんで、こんなに」 彼女はまるで、羽のように軽かった。 ほんの少しだけ感じるこの重さは、彼女の魂の重さなのであって、体という器には一グラムの重さすら無いように感じた。 仰向けに横たえたおかげで、白い前髪のかかるその顔が、よく見えた。 「…………っ」 透明にすら見える肌、桜色の唇。 閉じられたまぶたの、今は見えないその瞳に、なにか、少しだけ懐かしい何かがあるように思えた。 この少女は、きっと、普通の人間ではない。 あの軽さ、この、なんとも形容しがたい、はかなげな雰囲気。 もう少し見ていたい、そんな気持ちも、無いといえば嘘になる。 けれど、あの人のことが、もう目の前に迫る旅の終わりが、それを塞いだ。 僕は黙ったまま立ち上がり、隣においてあった鞄を持ち上げ、背負う。 硬い地面に座ったまま眠っていたからか、身体のあちこちが少し痛んだ。 「……置いてっていいのかな」 もう一度辺りを見渡してみるが、誰一人見当たらない。動くものはいない。 ただ、風の音と少女の寝息が、ひたすらに、淡々と響いていた。 背を向け、数歩進もうとしても、足は少しだけ動いたところで止まってしまう。 惹かれているわけではないはずだ。 僕が惹かれたのは、魅せられたのは、後にも先にもあの人だけなはずだから。 唇を噛み締め、僕は何も考えないようにして、一歩踏み出す。 そして歩く。 彼女は、誰なのだろうか。どこから、来たのだろう。 なぜ、あんな場所に? あんなにも軽く、儚く、それなのになぜ、恐れという感情をいだかないのか? 僕はそんな疑問の数々を、ひたすらに無視した。 歩く。砂利を踏む乾いた音が、響く。そして。 それに重なるように、それを包み込むように、声が、聞こえた。 「――ねえ、待って」 「っ……?」 一瞬、いや、数秒ほど、僕はその声の主が誰なのかわからなかった。 しばし考え、そして振り向く。 その瞬間が、ひたすらに長く感じて、そして。 「はじめまして」 そこに、少女はいた。 散る花のような笑みを浮かべて、ただ、立っていた。 何も言えずにいる僕に、彼女は一歩、また一歩と歩み寄ってくる。 足音は、なかった。 「……君……は?」 僕の口からこぼれたのは、そんな言葉だった。 けれど彼女は、それで十分だというように、名乗った。 「わたしは、テリシア。……あなたは?」 その話し方は、なぜかわからないのだけれど、僕に鋭く突き刺さるように聞こえた。 先程は見えなかった、青い瞳が、優しげな光を帯びる。 「僕は……ルフィア」 それだけ言うのが、精一杯なほどに、どうしようもない感情が渦巻いていた。 彼女は、テリシアは、くすりと笑う。 「あなたも、あの山に行くんでしょ?」 すずやかな声音。 透明な笑顔。 少しだけ幼いしぐさ。 なぜか、それら全てがあの人を思い起こさせた。 似ている。 姿も、声も、あの人とは、違うのに。 僕は返事を出来ない。どうしようもない、ただひたすらにもう彼女を見ていたくないという思いだけが揺れていた。 あの人が、いるはずがないのだ。こんな場所に。 だから、この少女は紛れも無く別人だ。この人がもしかしたら、なんてそんなのは馬鹿げた妄想だ。 なのに、その全てが、あの人を。 「……ルフィアくん?」 「君は……誰なんだ……?」 彼女は、僕と目を合わせてから、また、にこりと笑う。 「わたしは、壊したいものがあって、ここに来た」 「え……? 壊したい、もの?」 僕も、同じだった。 壊したいものが……あった。だから、ここに来た。 そのためだけに、ここまで来た。 「ねえ、一緒に行こうよ。君が旅する理由は、聞かないから」 彼女は、僕にそのしなやかな腕を伸ばした。 迷いは、あった。迷いしか、なかった。 でも、一緒にいたいと思った。 大嫌いなのに、それでも好きだと思ってしまう、そんな相手に抱く気持ちと同じなんじゃないかな、と。 そんなふうに感じた。 痛かった。心が、あの人を思い出して、苦しかった。 それでも僕は、その手をとった。 とってしまった。 彼女のかすかなぬくもりが、つながった手のひらを通じて僕に流れ込む。 涙が、零れ落ちそうになった。 「ありがとう、ルフィアくん。早く、行こう!」 手を繋いだまま、彼女は駆け出していく。 僕は、それに引っ張られて、転びそうになりながらも、走っていた。 こんな風に人といたのは、いつぶりだろう。 だけど、素直に喜ぶことはできなかった。 僕が好きなのは、あの人だけのはずなのに。 なぜこんなにも、こんなに出逢って数瞬で、彼女のことが――。 僕はきっと、最低な人間だ。 でも、少しだけ、彼女と笑ってみてもいいだろうか。 あの人は、怒るだろうか。 どうせ、旅が終わるまでの、ほんの短い間なのだから。 許してくれるのだろうか。 「ルフィアくん、もうすぐだね」 彼女は振り向きながら、太陽に照らされるその顔に、温かい笑みをたたえた。 ◆ 彼女に何度聞いても、なぜあの時僕の隣で眠っていたのかは、教えてくれなかった。 どこから来たのかも。あの軽さの理由も、秘密、と笑うだけだった。 その代わり彼女は、この山に眠る剣と、この世界に伝わる神話のことを、教えてくれた。 「あの山、破壊の山には、はるか昔、破壊の神が住んでいたの。破壊の神は、一本の剣を使って、様々なものを壊してきた。家や、町。あるいは、人の愛や、絆さえ。だから、それをいけないと思った南の無の女神が、破壊の神を倒しに行った」 太陽はすでに真上に浮かび、目指す山へも、もうあと数時間でたどり着くだろう。 「破壊と無、勝ったのは無の女神だったの。女神は、破壊の神が使っていたその剣に、名前をつけて、この山の中にある、破壊の祭壇に収めたの。それが――」 「ノーズブリード、鼻血の剣、だろ」 この話は、誰もが知っている定番の神話だ。僕だって、そのくらいは、知っている。 「そう、でもなんで、そんな名前かって、しってる?」 彼女は僕の隣を歩みながら、小石をけとばす。 「……いや、知らない」 「それはね、無の女神が、鼻血というものを、人間の中心、つまり心から溢れ出る鮮血……あるいは、苦しみや憎しみの代名詞として考えたからなの。ほら、鼻は顔の中心にあるでしょ?」 それは聞いたことがなかった。僕の住まいは南のほうだから、皆信仰していたのは無の神だったのだけれど。特にあの人は、無の女神を慕い、心の底から、信じていた。 「あの剣は、何もかもを壊すことが出来るの」 「……君が壊したいものは、なんなの?」 僕の問に、テリシアはうーん、と考えこむ。 「内緒。最後に、教えてあげる」 「なんだよ」 ふふ、と笑って、しばらく無言が続く。 「……ルフィア君は、なんでこの神話を信じてるの?」 「え? いや、それは……」 そうだ。破壊の剣なんて言うのは、所詮は神話だ。 この山にそれがない可能性もありうるし、その確率の方が遥かに高い。 「……信じてるから、それだけ。そっちこそ、なんでさ」 「うん、私も、信じてるから、かな」 彼女は、はにかんだように笑った。 ……へんな関係だと、思う。 お互いがどこから来たのかも教え合っていないし、目的は『なにか、壊したいものがある』ということしか分からない。 それでも、まあいいやと思えてしまうのが、不思議だった。 彼女の全てに痛む心を、無視さえできれば。 「ね、ルフィアくんは、破壊の祭壇に着いて、その、壊したいものを壊しちゃったあとはどうするの?」 旅のあと、のこと。 「特に……考えてないな」 嘘だ。本当は、とっくに前から、決まっている。多分、旅を始めた時から、きまっていた。 テリシアは、そっか、と笑った。 「わたしも、考えてないよ。ねえ、また旅とか、始めるのはどう?」 「いや、もう旅はいいや」 そうかな? と考えるような声で言う彼女。 「でも、なにかしたらいいよ。楽しいこと」 テリシアは、考えることを手放すみたいに、言った。 「楽しい事なんて、僕にはもうないよ」 ふと、そうつぶやいてしまう。 慌てて隣に目をやると、テリシアは一瞬さみしげな顔をした後に、口を開いた。 「そんなことないよ。もう、ルフィアくん、元気だして」 そう言って貧弱に僕の肩を叩く、彼女は、本当に。 本当に、あの人とよく似ていた。 僕はとりあえず笑みを浮かべて、そうだねと、言った。 上手く笑えなかっただろうか。 どこか胸の奥の、多分魂と呼ぶべき部分が、軋むのを感じた。 ◆ 「もうすぐ、着くね」 「そうだな」 僕たちのすぐ目の前には、破壊の山がそびえていた。 先程までは晴れていた空も、曇天と変化している。山も、雲に隠れてしまって頂上が見えない。 「なんか、怖いね。破壊の祭壇まで、どれくらいかかると思う?」 ……どれくらいかかるのだろう。 確か、破壊の祭壇というのはこの山の中にあるはずだ。 頂上まで行く必要はないはずで……。でも、どれくらいの大きさかなんてよく知らないし。 「いや、分からない」 正直、検討もつかなかった。けれど、食料だって十分にあるし、多分大丈夫だろう。 「えぇ、ルフィアくんノープランですか」 「そっちこそ、何も持ってないじゃん」 僕が言うと、彼女はむっと頬を膨らませた。 「しょ、しょうがないよ。だって、用意してる暇が……あ、でもおなかへったな……」 テリシアは、両腕でお腹を抱えながら、僕の方を見た。 その、海のような、空のようなひたすらに青い瞳は、やはり音もなく僕に刺さった。 「じゃあ……」 逃れるように視線を外し、僕は鞄をおろして、中から小さなパンを二つ取り出す。 「え、くれるの?」 「まあ……うん」 彼女に渡すと、嬉しそうな目でそれを受け取る。なんだか、流れで二つとも渡してしまった。 「ありがとう、ルフィアくん」 「いや、いいよ。――あ」 ん? と首を傾げるテリシア。 僕は、正面の山を指差した。 「洞窟が、ある」 ぽっかりと、口を開ける、洞窟が見えた。 ブラックホールのように暗い、ひたすらに真っ暗な、闇に満ちた空洞だった。 「あの中に、祭壇が?」 「……神話のとおりなら、ね」 テリシアが、パンをかじる。 僕は鞄を背負うと、また再び歩き出す。 「もう少し、だね」 「厄介なことが、なにもないといいけど」 そうだね、とテリシアは笑った。 それからは、ぽつりぽつりと言葉をかわし、時に黙ったり、小さく笑ったりしながら、歩みを進めた。 辺りにはもう草も木も見当たらず、本当に、なにも生き物のいない世界だった。 「……ここだね」 数十メートル先に、岩に囲まれるような洞窟の入口があった。 真っ暗で……ただ、中からは僅かな明かりが漏れているような気がするのは、気のせいだろうか。 僕は、鞄の中からランプを取り出すと、マッチで火をつけた。 時間は、多分午後の3時くらいだと思うが、辺りはすでに薄暗い。 今夜はひとまずここで休もうかと思っていたが、曇り空は今にも大粒の雨を降らせそうだった。 「中に、休める場所を探そうか」 「うん、分かった」 テリシアは特に何も言うことはなく、うなずく。 僕は、ランプを掲げると、右足から前に出した。 少し遅れて、テリシアもそれに続く。 もうすぐだ。 もうすぐ、終わる。 ごめん、遅くなって。 ごめん、こんな最低な僕で。 あの人に、そう告げる。 僕が、愛したひと。 もっと、一緒にいることができたはずだった、あの人。 僕は、あの人のことをおもいだしながら、洞窟へと足を踏み入れる。 胸の上でペンダントの鎖が涼やかな音を立てる。 テリシアの、聞こえない足音は、それでも心強かった。 ◆ 僕は、あの人のことが好きだった。 まだ大人とは言い切れない僕だって、本気で心から愛していると、そう思ってしまうくらい、好きだった。 あの人とは、子どもの頃からずっと一緒にいた。 僕達の暮らす村では、結婚相手はできるだけ早く選ぶものだった。 どうしても結婚できない人は、村の人から悪く言われたり、とにかく、軽蔑された。 それに理由があったかはよくわからなかった。 ただ、そういう異質な文化が、あの村にはあった。 独りで村の人からも冷ややかに扱われる人たちが、可哀想で、あんなふうになりたくなくて、僕はあの人と、約束した。 けっこん、しよう。 そうしたら、あんなふうにはならない。 そう幼稚な約束をして。確か、七歳くらいのころだった。 八歳になるころに大人たちにそう話してみたら、すぐに認められ、僕たちは九歳の頃にはすでに大人たちによって結びつけられた。 でも、僕はあの人のことを好きだったし、あの人だって僕のことが好きだったはずだ。 けれど、僕達が十六歳になる頃。 あの人は、いなくなった。 殺された。 あの人は、その日、無の女神にお祈りをしに、少しだけ北にある町の教会にいた。 そこには、沢山の人がいたという。 その人達は全員、破壊の神を崇める奴らの襲撃によって殺された。 事実を述べるだけなら、こんなに簡単に表してしまえる出来事だ。 だけどその裏では、多くの人の悲しみや苦しみ、憎しみと怒りが生まれた。 それを、無の女神は『鼻血』と比喩するのだろうか。 僕は、七年の月日を経て、あの人のことを愛せるまでになっていた。 大人から冷ややかに見られることはなかったし、町の人たちもあの人が死んだ時にはひどく悲しんでくれた。 けれど。 あの大人達は、言った。 『早く新しい婚約者を見つけなさい』 おかしな村だったのだ。 今考えて見れば、あの小さな村には、きっと沢山の子どもを産んで、村を大きくしたいだの、そんな考えがあったのだろう。 早いうちに男女を結べば。 その男女は子孫を、多く残すことが出来る。 僕たちはそんな大人のくだらない計算の被害者だったのだと、今は思う。 けれど、僕達はきっと愛し合っていた。 16歳で別れてしまった僕たちは、子孫を残すことができなかったから、大人たちはあんなことを言ったんだろう。 なら、僕らはなんなんだ。 はるか遠くの、神話を信じる異国の人からも、すぐ近くの、同じ文化を共有しているはずの人からも、僕達は受け入れられなかった。 世界なんて大嫌いだ。 僕が、心から愛せたのは、きっとあの人、だけだった。 僕は、どうしてここに来たのか、よくわからない。 ただ、あの人に返したいものが、あった。 何が正しいのか、なにをどうすればいいのか。 もう僕には、分からない。 でも、とりあえずは定めた目標がある。 今は、何も考えずにそれだけを目指そう。 長い回想の末、僕は、意識を目の前へと移す。 テリシアは、まるでこの世界に生きるものとは別のなにかみたいで。純粋な宝石みたいだった。 「ルフィア、くん」 「……なに?」 どこまでも続く洞窟を歩いていく。 「なんか、嫌な予感がする」 「……え、それって……」 テリシアの方を振り向く。 いない。 「え? テリシア?」 ランプを振り回すようにして、辺りを照らす。でも、いない。 深い、どこまでも続く暗闇に、彼女が溶けてしまったように思えた。 真っ白で、あんなにも透明な、世界とはかけ離れた彼女は――。 「……オマエ、ナニしに、きた」 ぞっとするほどに。 その声は冷たく洞窟に響いた。 そして。 さらに冷たい、凍てついていた氷としか思えない刃が、僕の喉元に僅かに触れた。 そのはずみに僕の手から滑り落ちたランプが、明かりを灯したまま、洞窟を照らす。 「今すぐ引き返さないってんなら、こいつを殺すぜ?」 別方向から、また違う色を持った声が聞こえて。 「テリシア……!」 洞窟の奥から、一人の大柄な男と。 その男に錆びた剣を突きつけられている、テリシアが、現れた。 彼女の瞳は、怯えに満ちていた。 僕は。 僕はどうする? どうすればいい! 「お前ら、なんだよ……!」 「オレらかあ? 破壊の神を崇めるもの、とでも言っておこうか」 破壊の神を崇めるもの? まさか……こいつは。 いや、それはこの際、あまり関係のないことだ。今は、この状況を、なんとかしないと――。 一度引き返して、もう一度、僕だけで来ようか。 その考えを見抜くかのように、大柄な男が口を開く。 「また戻ってきたりなんかしたら、今度はこんなチャンス与えたりしねえぞ?」 ランプの光に怪しく照らされた大柄な男は、その顔を汚れた笑みで歪ませながら言った。 だとしたら。 僕は、あの人のために、テリシアを捨てるべきだ。 でも、それでも、僕は、もう。 テリシアのことを見捨てることなんて、できそうもなかった。 どうして。 あの人とテリシアを重ねて、あの人の代わりにしようとでもいうのか? 違う。 あの人よりも、テリシアのほうが、好きだというのか? 違う。 そんなわけはない。 あの人とは七年。テリシアとは、たった数時間だ。 それなのに、なぜ、僕は迷わずにあの人を選べない? 「ハヤく、キメロ」 「殺しちまうぜ……?」 どうすればいい。どうしたらいい。 テリシアが、小さく悲鳴を上げる。 たとえ、テリシアを無視して洞窟の奥に駆け込んでも、こいつらから逃げて破壊の祭壇にたどり着けるかはわからない。ノーズブリードだって、ないかもしれない。 かと言って武器も持たない僕達が戦おうと言うのなら、ふたりとも殺されて終わってしまうだけだろう。 じゃあ。 逃げるしか、逃げるしか無いのか……? 「ルフィアくん……!」 では僕のここまでの長い旅と、死んでも果たすという決心は、なんだったのだ? 「おい、いいのかよ?」 世界なんて、世界なんて――。 「ルフィアくん!!」 その声に顔を上げると、テリシアは、どこかで見たことのある顔で、叫ぶように言った。 「考えるのは、後でいいから、大丈夫だから、私がいるから……!」 あの人が、一瞬脳裏をよぎった。そこにいるのが、あの人だったら、きっと、彼女と同じようにそう言ったはず。そう思えて、仕方なかった。 暗くてよく見えないけれど、テリシアの瞳のふちで、なにかがきらめくのが見えた。 べつにいいんじゃないか。 誰が一番と決めなくても。 今は、そうひたすらに信じるしか無いと、僕は男を睨んだ。 後ろにいるのがどんな人間かわからないのが難点だろうか。 男は、にやりと笑って、残酷なまでにその声を響かせた。 「時間切れぇ」 どうせ最初からそうするつもりだったのだろう。 その声が終わらないうちに、僕は駆けだした。 まだ、終わらない。 時間切れだというのなら、これは果てしない延長戦だ。 喉元に触れていた得体のしれない刃物を振り切るように強引に進んだからか、首から少しだけの血が弾けた。 でもこんなのは、『鼻血』には満たない。 ――テリシア。壊れて枯れたこの世界で、まだ儚く美しく見えた、少女を助けるためならば。 あの人はもういない。 だけど、テリシアは、今目の前にいる。 あの人を助けることができなかった。 だったら僕は、テリシアすらも助けられずに死ぬわけには、いかないはずなのだ。 「っ!」 僕の行動に驚いたのか、大柄な男は、手に力を込めるのが少し遅れた。 それが、全てだった。 「ルフィアくん……っ」 テリシアの喉元にあてがわれた剣に、僕は手を伸ばした。 その切っ先を掴み、思い切り引っ張って男の手から剣を抜き取る。 剣のその錆びた刃は、手のひらを刳り、右手は一瞬置いてから血に濡れる。 剣を持ち替え。 そして、男の喉元にその剣先を向けた。 「お前らなんだろ。南の方の、無の教会を襲ったのは」 これは、あの日からの、延長戦なのだろう。 「……ああ、あいつらか。あいつらはまだ帰ってきてねえな。どっかで死んだかもなぁ」 男が、テリシアを離す。僕は、崩れそうな彼女を受け止めた。 軽い。 羽のように。夢のように。 ああ、彼女が、僕の血で汚れてしまう。 そんな事を考えながら、僕は後ろから迫る冷気を、痛いほどに感じていた。 目の前の男も、余裕気な表情を浮かべている。 狙われているのは、僕ではない、テリシアだ。 あいつは多分、あの冷たさが武器なのだろうが、それは精神を研ぎ澄ませれば、すぐに感じられる『気配』となってしまう。 まだ、もう少し、もう少し――。 「ごめん、テリシア!」 僕は剣を大柄な男に向けたまま、テリシアを右側に突き飛ばし。 だが、少し遅すぎたのだろうか。 彼女を押して伸ばしたままだった腕に、その冷気は突き刺さった。 でも。 それでも。 まだ、終わらない。 僕は、その凍てつく刃が引き抜かれる前に、腕を強引に引くと自分で、そのナイフを抜き放った。 どうしようもない痛み。指すような冷たさが、僕の体温を急速に奪っていくのを感じる。 でも、あの時なんかと比べたら、こんな痛みには、いくらでも耐えられる。 愛していた人を失い、世界から見捨てられた、あの日の痛みに比べたら。 「もう、お前らには……武器はない」 しばし、沈黙が流れた。 「ヘエ……? ブキか。ブキネ……」 冷気の持ち主は、ひどく小柄で、漆黒のローブを着ている。フードも目深にかぶっていて、表情は見えそうにない。 「お前なんかが、オレらに勝てると思ったか? オレらにはな、破壊の神の力が、あるんだよ」 醜悪な笑み。 テリシアの髪がちらりと揺れるのが視界に見える。 大柄な男が僕を押し倒し、ローブはすばやく僕からあの凍てつくナイフを奪った。 僕には人を殺せないことを、彼らは気づいていたのかもしれない。 もう、ここまでなのか。 そう、思った時。声が、鈴の音が、響いた。 無の女神さま。 その声は、その声自体が、女神なんじゃないかと、そう思ってしまうくらいに、 煌めいて、透き通って、洞窟自体を、ほのかに照らしていた。 からん。 剣とナイフは、音を立てて洞窟の地面へと、落下した。 ランプの光は、ちかちかとまたたき、洞窟を暖かく照らす。 急速な変化を起こしたこの空間で、暫くの間、音というものが立つことはなかった。 そうしていると、何か、音ではない何かが、聞こえてくる。 この山も、生きているのだと、僕には思えた。 数秒後、あるいは数分後、久しぶりに聞いた音は、彼女が立ち上がる音だった。 これだけ静かならば、聞こえるのだなと、気がついた。 「ルフィアくん……痛いよ……」 僕は、左手を地面について、起き上がる。 「ごめん。もっと、いい方法、僕には思いつけなかったよ」 テリシアは、今にも崩れそうに、一歩一歩、歩み寄る。 「……ごめんね……わたし、いつも君を苦しめるばっかりだ……」 「そんなこと、ない」 テリシアは、座り込む僕の横で膝をついた。 僕は、少し迷ってから、テリシアを抱きしめる。 怒るだろうか、あの人は。 それとも、最後はテリシアとおんなじように笑ってゆるしてくれるだろうか。 いや、許されないかも、しれないな。 「……テリシアがあの時ああ言ってくれなきゃ、僕は絶対死んでた」 彼女の、ふたつの青い輝きからこぼれ落ちるしずくは、どうしようもなく綺麗なんだろうなと思った。 「ありがとう……怖かった……」 「もっとかっこよく助けられなくて、ごめん」 テリシアはふるふると首を横に振った。 その涙は、見なくてもいいやと、なんとなくそう思えた。 暫くの間、僕達はずっとそうしていた。 ランプの明かりで照らされる、その地面に変化が現れた頃、テリシアは、顔を上げた。 「これ……」 無機質な土と小石が転がるだけだった乾いた地面に、緑が広がり始めていた。 「……無っていうものは、終わりじゃないの。ぜろ、すべての始まり、なんだよ」 半径二メートルほどの地面を、あっという間に青々とした草が覆う。 そこから、何本か、長い茎のようなものが生え、儚く、花びらを広げた。 「あいつらを倒そうとしたことは……間違ってたかな」 僕は、文化の違う人を結局は分かり合えないと殺そうとしていたのだろう。 それは、向こうのやっていることと何が違ったのだろうか……。 「ううん。あの人達、絶対に神様を理由に人殺ししてただけだと思う」 彼女は、未だ涙に濡れる瞳を、僕に向ける。 けれど、その瞳には、すでに強い輝きが宿っていた。 「生き物を殺そうとすることは、どんな生き物であってもいけないことだよ」 そして、くすりと、笑う。 「ありがとう。ルフィアくん。怪我、大丈夫?」 僕の右手と首筋に触れる、そのしぐさすらも、もう。 あの人と、似すぎていて。 でも、心は軋まなかった。 あの人のことだって、愛している。 でも、あの人とテリシア、どちらか選べなどと言われても、多分迷いなく選ぶことはできない。 どちらも、生きている人間で。 そしてふたりとも、きっと僕のことを嫌ってなんかいないはずだから。 それでどちらかを選ぶとするならそれはきっと我儘なのだと、僕には、そう思えた。 それが間違った考えであっても。 「大丈夫だよ。全然」 「ほんと?」 うなずいて、立ち上がる。 「いこう、僕達の目的は、まだ終わっていないから」 テリシアの服も髪も、だいぶ汚れてしまっていた。 終わったら――。 終わったら、どうしようか。 まだいいか、と僕はテリシアの手を取って立ち上がらせる。 「もう少しだから、もう、休まないで行っちゃうか」 「うん、そうだね」 彼女は、僕の横で、またくすりと笑った。 「え、な、なに?」 「なんか、ルフィアくん、会った時よりも、優しくなってるなあ、って思って」 それは、最初の方はどうしてもあの人を思い出して苦しくなってしまったからだろうけど。 気づかれてるのか……。 「気のせいだよ、多分。ほら、いこう」 ランプを拾い、草をなるべく踏まないようにしながら進む。 「待ってよー」 テリシアが小走りで僕についてくる。 洞窟の暗さは、もう少しも怖くなかった。 せせらぐ泉の横を通り過ぎ、一人分ほどの細い道もくぐり抜け、開けた場所には、あの男たちが暮らしていたと思われる部分もあった。 それを横目に、洞窟を進んでいく。 階段を登って、テリシアが転びかけて、話して、笑って。 ペンダントは、青い光をきらめかせ、テリシアは、時々それを視界に入れてその青い光を青い瞳に映した。 どれくらい歩いたか。 僕達の旅の終わりは、もう目の前にあった。 ◆ 「ここが、破壊の祭壇」 そこは、破壊の山の中心部のようだった。 真上には夜空が見えている。 「てことは、この山には山頂がないんだ」 テリシアの言葉に頷きながら、僕は、その空間の真ん中に寝かされた一振りの剣に、意識が吸い寄せられるのを感じた。 「あれが――」 星明かりに照らされて、その剣そのものがまるで星かのような、そんなまばゆくも控えめなきらめきを宿していた。 「あれが、ノーズブリード」 僕は、それをぼんやりと眺める。 僕は。 本当に、壊してしまっていいのだろうか。 これを。 この、青い、青いペンダントを。 ――このペンダントは、あの人のたからものだった。 いつも身に着けていて、死ぬときには、絶対に一緒なんだと笑いながら言っていた。 でもあの日、あの人は、ペンダントを置いて家を出てしまった。 無の女神を象徴するそのペンダントを、忘れるわけがないものを、その日に限って、彼女は置いていってしまった。 だから僕は、あの人に、ペンダントを返そうと思った。 それで、ここまできた。 どうしようもなくて、こんなのが正しいのかどうかもわからないけれど、 彼女を殺した、破壊の刃と同じものでこのペンダントを壊してしまえば、きっとペンダントは彼女のところに行くはずだと、僕はそう考えていた。 でもそれは、ほんとうに正しいのだろうか。 「ルフィアくん。先に、いいよ」 テリシアは、僕に笑いかける。 僕は、迷っていた。 迷うこと無く、何年もの月日をかけてここまで来たはずなのに、ここに来て、迷っている僕がいた。 「……迷ってるんだ。壊そうか、どうか」 テリシアなら。 あの人が、いうような言葉を、僕が一番欲しい言葉を、くれるような気がした。 「それは、どんなものなの?」 「……僕は――」 僕は、大雑把にだが、壊したいのはペンダントで、そして今まで考えてきた理由を、テリシアに話した。テリシアは、笑ったり、しなかった。うん、と一度うなずいて、口を開く。 「……もしも、わたしがその人ならね」 テリシアは、鈴の音のような軽やかな声で、そう話す。 「わたしはそんな風に、ペンダントを壊してほしくなんかない。壊すってことは、もう元通りには直せないってこと。無に還ることとは違って、生まれ変わることもないってこと」 彼女は、なめらかに言葉を話す。 「わたしだったら――その人に持っていてほしい。その人が、わたしの分まで生きて、そしてその末にわたしのところに来てくれた時に、返して、ほしい」 テリシアの頬を伝うしずくは、星と月の明かりを透き通るように反射して、眩しいほどにきらめいた。 「だから、壊さなくても、いいんだと、わたしは思うよ」 テリシアは、僕の方を向いて、泣きながら、笑った。 「……僕は」 僕は。この後。ペンダントを、返した……いや、壊したあとに。 「僕は、死ぬつもりだったんだ。その剣で自分を貫いて、壊しちゃおうと、思ってたんだ……」 声が、かすれていく。 「こんな世界に、生きる意味なんてなかったから、だから――」 「ルフィアくん」 ふわりと、透き通る白と、あの懐かしい香りが、僕を抱きしめた。 「わたしがいるよ、大丈夫」 強張った身体から、力が抜ける。 「テリシア……じゃあ、僕が、ここに来た意味はなんだったのかな……?」 「大切なことが、わかったでしょ」 テリシアは、笑った。 「テリシアと……仲良くなっても、テリシアのことを、『ひと』として好きになっても、あの人は怒らないかな」 「怒らないよ、きっと」 もう一度小さく笑って、テリシアは僕から離れると、あの剣の方に目を向けた。 「最後に、わたしの壊したいもの、ううん――無くしたいもの、無くすの、手伝ってくれる?」 「もちろん。無くしたいものって、なに?」 最後に、というのが気になったものの、僕はテリシアにそう訊く。 「――あれ」 「え?」 彼女が指差すのは。 あの、剣だった。 鼻の血。ノーズブリード。 「あれを?」 そう、と彼女は笑う。 「あなただって、ほんとに壊したかったものは、壊すべきものは、この剣なんじゃないかな」 ――そうか。 あの人を殺したのは、このノーズブリードでもあるはずだった。 だったら、同じ過ちがもう、二度と繰り返されないように。 「鼻血は、流れるべきものじゃない。あなただって、鼻の血と呼べる悲しみを、苦しみを感じたことが、あるんでしょ?」 僕が頷くと、君は笑って言った。 「じゃあ、やろう」 剣の前まで行くと、僅かに赤みを帯びているのが、見えた。 彼女は、目を閉じ、言葉を紡ぐ。 無の女神さま。 この剣は、破壊の神の力を今も宿しています。 それが、いくつかの命を奪い、鼻の血が流れました。 この剣を、無へと、還してくれますか。 そして――ありがとう、ございました。 僕の握りしめるペンダントが、青い、青い光をまばゆく散らせた。 赤き血の剣、ノーズブリードは、青く優しい光りに包まれ――。 軽やかな金属音を立てると、やがて消えた。 そして、その直後に。 その土一面を、安らかな緑が包み込んだ。 あるところでは花が、木が、その場所を、命という存在で暖めた。 「これで、いいんだね」 「うん、ありがとう」 テリシアは、また笑みを浮かべた。 けれどすぐに、それはさみしさを宿す。 「でも私は、もういかなきゃ」 「え?」 「でも、ルフィアくんなら、大丈夫だって、思ってるよ」 行く? どこへ? だって、君がいたから僕は――。 「だって、他に僕にはなにも」 もう。 テリシアはそうつぶやいて、もう一度僕を抱きしめてくれる。 「生きて。最後まで。そのペンダントと、一緒に。それで、またもう一度会おう」 その声も、顔も、明らかにテリシアのものだった。 でも。 その中にある、体の内側の、もっともっと奥にある、魂は、もしかしたら、いや、きっと――。 「泣かないでよ、ルフィアくん」 言われて初めて、僕の瞳から、とめどなく透明な水滴が流れ落ちているのに気がつく。 「この世界は、広いんだよ。生きてるのは、何も人間だけじゃないの。わたしだって、こんな世界、どうしようもないって思ったよ。愛する人と一緒にいることすら、許されない」 ――でも、と、彼女は続ける。 「世界には、奇跡がある」 彼女は、僕と向きあった。 「わたしとあなたが、もう一度会えたんだから。ね、ルフィアくん」 月明かりに照らされた、彼女は言った。 「わたしはね、無の女神さまに願い事を叶えてもらったの。女神さまのせいでわたしがしんだようなものだって、言ってくれて。でもやっぱり、無の女神さまだから、身体は軽くなっちゃうし、色々変だね」 そうか、だから、だから逢った時に、あんなにも惹かれて――。 僕は、君がわかっていたのだ。 どんな姿をしていても、僕には、君が分かったのだ。 「いつも、君に助けられてばっかりだよ……」 僕が言うと、君は、嬉しそうに笑った。 「また会うときは、もっと強くなっててね? ――でも、いまのルフィアくんだって、かっこいいよ。助けてくれて、ありがとう。」 僕は、首を横に振る。 「ありがとう。僕の間違いを正してくれて。僕のことを、願ってくれて」 君は、透き通る笑みを、最後に見せてくれた。 「わたしは――」 彼女が最後にその空に放ったのは、紛れも無く。 僕が愛した人の――愛している人の、名前だった。。 |
ひのえ H/uiBekOJA 2016年08月28日 23時58分38秒 公開 ■この作品の著作権は ひのえ H/uiBekOJA さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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