とりあえず俺は今、猿轡をされている |
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とりあえず俺は今、猿轡をされている。 口ん中に布みたいな、ざらざらとした奴を口いっぱい詰め込まれてて、それを細い布で括りつけられて噛まされて、声も出ねえって感じになってる……まて、違う、自縛プレイ中とかじゃねえ、俺はそういうプレイとかしねえから。しかも海外を飛び回ってる両親がよ、汗かいてようやく建てたこのマイホームの中でだぞ。んで高校一年生の息子であるところの俺がリビングで堂々自縛猿轡プレイできるわけねえだろ、もしやってたらさすがに親俺勘当するぞ。厳しいものがあるだろ。 ふがふがって声も出ねえし、しかも胡坐かいて両手足首をくそ堅い縄で縛られてて、どう考えても完璧な拘束状態にある……要するに俺は今、何者かによって拘束されている。うん、受動なんだ。受けな、緊縛されて猿轡されてんの。家ん中で。ちげえよ両親にじゃねえよ、だとしたらやばすぎるだろ、日本の闇すぎるだろ。 だから俺はまったくの健全男子であるからして、そういうプレイとかを楽しんでいる訳では決してなくて、そんな好き好んで拘束されているわけじゃあ── 「やったー! 初めて男の人を緊縛したよぉー!」 ……。 「へっへ…… わくわくしちゃうな、こうして暗い夜の住宅街で、誰にも不審がられることなく家の中に侵入して、家の中の人をこうすぱぱっと捕えちゃうなんて……」 リビングで寝てた俺に変な布詰めて緊縛したこの、爛漫なカワイイ声と共にうっとりとした顔で自分の成果を噛みしめる、この賑やかしい女の子。 ……こいつ、マジで何者なんだ。 「ふっふふー……一切気付かれずに、鮮やかに! すぱっと拘束して身動きを封じる! まさに天下の大泥棒、六代目【不知火(しらぬい)】とはこの私! 家に眠るお宝は、この私が頂戴するわ!」 と言って、リビングで眠っていた俺を拘束したと思われる見ず知らずの容疑者こと大泥棒さん、不知火(推定14歳)は今、俺の目の前でたん、たん、と飛び跳ねてはきゃっきゃっと無邪気なまでにはしゃいでいる。 「お爺ちゃん、見ててね私の颯爽たるデビュー! お爺ちゃんの名は決して汚さないんだから!」 ……よし、ここでひとまずこの大泥棒さんの容姿について説明しよう。 こいつ……不知火が見に纏ってるのは、隣街にある某中高一貫女子校の制服だ。垢な乙女のように白い生地でできたセーラーワンピースと、それに準えるように活動的で柔らかな胴に這う蒼いベルトが、とんとんジャンプでかちゃかちゃと鳴っててやかましい。 あえて制服着てるのは、夜の住宅街を徘徊するのに不審がられないようにするためっていう魂胆なのだろうか。だとしたら中々の策士ではあるし、よもや女子校の生徒が強盗まがいなことをするとは露にも思わないだろう。 そして体も、まあ自称怪盗を名乗るだけあって元気一杯といったところ。白スカートから垣間見える締まった眩しい太股にくびれの腰が溌剌としていて、眺めるだけでも飽きない。そしてその元気の勢いが胸にまで届いたのか、たっぷりと膨れた胸がしきりにその形を主張していて目のやり場に困るほど。 そして肝心要の容姿だが……控えめに言って美少女である。 くるっと丸い瞳に整った鼻梁。撫で心地のよさそうな頬がリビングの蛍光灯で淡く幻想的に輝いている。両手で覆ってしまえるほどの小さな顔の輪郭が緩んだ頬が忙しなく、そよぐ黒髪は高波のように賑やかと。なんとまあ元気一杯な彼女らしい、天真爛漫な性格をよく反映した顔立ちだ。 ……いくら元気一杯だからって、いきなり俺ん家に侵入して拘束しにかかるのはやりすぎじゃね。行動力の塊かよ。 とか思っていたら、はしゃぎまわってた不知火はギュンっと俺の方へ体を向け、俺を安心させるかのような明るい笑顔を振り舞いに来た。 「ああ、大丈夫だよ、二ノ宮くん? 君の命までは取らないよ。私はお宝が目当てだからね!」 なんでこいつ俺の名字知っているんだ? ……ああ、表札でも見たのか。 いやまて、お宝ってなんのことだ。 「ついさっき君の家に上がり込んで二階から一階まですみずみ探し回ったんだけど、見つからなくてね。それだったらもう最後はこのリビングしかないって思ったんだけど……お宝、どこにあるんだろう、君知らない?」 猿轡嵌めてる人間に聞くことじゃねえだろ。Siriにでも聞けや。 と言う主張を「ふがふが」としてみる。 「ああっ、そうだ、猿轡嵌めてるんだっけ。でもごめんね、声を出さないための苦肉な策なの。お爺ちゃんみたいに催眠術とか洗脳術とか使えたらいいんだけど、結局教えてもらえなかったからなぁ」 と一人で不満げに唇を尖らせる不知火の姿は、拗ねた子どものようで微笑ましいところはある。まあ布で口塞がれるから頬が緩むどころの話ではないのだが。 とにかく、話を整理してみると。 この自称怪盗であるところの不知火は「俺の家にあるお宝」を目当てに夜の家に二階から侵入。それで二階から一階まで探したけれど目的の宝が無いと。そんで、残った最後の部屋は俺が学校帰りの疲れで眠っているリビングで、そして俺を拘束してクリアリング、リビングを悠々と探し回ろう……といったところか。 なるほど確かにこいつは俺を縛りあげて猿轡までしている。傍から見れば極悪非道だ。こんなことされりゃあ文句ひとつ上げてもいいし、なんなら必死の抵抗策を練り上げることだってしてもいい。 だが。だが、だ。 不思議と俺は今の状況を冷静に──いやむしろ達観して見てしまっている。 寝起きでバズーカ喰らった後の呆然感ともいうべきか、実のところ今現在の状況をはっきりと把握できていないというのもある。 だとしても。 この不知火が言う「お宝」というのがまったくピンとこない、というのもあるのかもしれないが、どうしてもこいつがただの悪い奴、とは思えないのだ。 なぜかといって、こいつはリビングの箪笥にひそめてあった通帳にガン無視であったのだ。「なんだ通帳か」と投げ捨て、しかもご丁寧に印鑑まで据えられてあったのに。たしかあの通帳には一人で住んでる俺が扱いに困るくらいの大金が入っているはず。怖くてその通帳を手にしないくらいなのだ、少なくとも目に止めても不思議ではない……はずである。 だがやつはそれを手放した。あっけもなく。 即ちやつは、金目がすべてではない、と俺は判断する。 となれば……むしろ気になるのだ。 果たして俺の家にいかほどのお宝が潜んでいるのか、と。 俺の両親は海外を渡りあるいている。それこそ西欧欧米、中米問わず時には中東までひとっ飛び……。そこで買い取った美術品骨董品を見本市で展覧し、世界各国からの富裕層に売りつける、いわゆる美術商だ。メルボルンのなんちゃらで展覧会を開いたっていうくらいのレベル、であるらしい。 俺が幼い頃には両親に海外の美術展に連れていかれて、そこで蘊蓄やら含蓄やら詰め込まれたのだが……どうやら俺には美術センスは無かったようだ。美術展で一番好きだったのはなに、と聞かれたら休憩所の使い古されたソファーって答えるくらいのアンポンタン。 結局中学二年年になった俺は、両親が海外で跳びまわるのを指咥えてこの家で置いてけぼりにされている……ということである。 となれば。 となればこそだ。 一体この家に、如何ほどの価値を秘める宝が潜んでいるのかと言うことである。 この家に俺が住み始めたのはちょうど二年前。あらかたの備品は手に触ったくらいにこの家に慣れ親しんできたとは思うが、さりとて通帳の金額に叶うほどの高級品が合ったかと言われると首を横に振るしかない。 ………………………………まあこんな美術センス0な俺に与えられるものなんて、ガラクタ程度のモノしかねえだろうけど。 っと、自嘲しているばあいじゃねえ。俺は強盗犯の被害者なのだ。 こいつの目的ははっきりとしている。 俺の家の宝を探し当てるということ。 むしろ大歓迎とも言えるのではないだろうか? 一体俺の家にどんなお宝が潜んでいると言うのだろうかと。 俺は変な布が詰め込まれた口で一息つく。 俺は縛られた手を適当に揺らす。なるほど危害を加えないとは真であったか、拘束される手首が血行障害を起こさないような縛り方をしている。足首も同様。この分なら一応は安心、と言えるだろう。 要は俺はこのままじっとしていればいいのだ。そうすればいつか見つかるに違いあるまい。 この家に潜んでいる、大お宝とやらの真実を。 どうやら不知火といったこいつは、それなりにやり手のようでありそうであるから、かなり期待できそうである。 ならば俺は不知火に任せてしまえばいい。俺はただ縛られていりゃあそれでいい。なんて楽なことか。 それに…… その間じっくり不知火の姿を思う存分見つめることができるっていうのがまたポイントなんだよな。 これを役得として何と言おうか。むしろ被害者であるのだし、これくらいの視姦は許されるべきではないのだろうか? いやマジで。 いやだってさ、不知火の胸、良い形してるんですよ。でかいだけじゃなくて、垂れない程度に張った感じがたまらん。そのせいか制服の上からもそのでかさが圧縮されないで、くびれの細さも相まって良い具合に素晴らしいパイオツである。 ……やばいな、不知火の胸を意識しだした瞬間、心臓が変に騒ぎ始めてきやがった。 いやだってこいつ、顔もよければ体の肉つきも良いし、そしてなにより、ちょいちょい見せるその、柔らかい肢体のくねりがなんか、こう…… 「あれ、どうしたの?」 っていきなり俺の目の前に迫ってくるな! しかもおい、待て、それは── ぷるんっ 胡坐を掻いている俺に前かがみする不知火の胸の双丘が、たおやかに揺れた。 あ。 鼻に違和感が…… まてよ、今ここで鼻血をだしたら俺って…… ──ってヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! ヤバイ、今気が付いてしまった! 俺これ、命の危険すらある! やばい! 俺はおっぱいに殺される! ふんがぁ! と血相を変えた俺は冷や汗かきながらそいつの胸から目をそむけ、縛られた体を横っ跳びに跳ねた。それを逃亡と思ったのか、あろうことは不知火は俺を── 「駄目駄目、逃げちゃあ。あと数分、ゆっくりしてもらえるだけでいいんだから、ね?」 と、俺の背中から……抱き上げてきやがった! むにゅ 甚く官能的なクッションの音が聞こえてくる! そう不知火は俺を胸で抱きかかえて捕えようとしている! 仄かに汗ばんだ甘酸っぱい不知火の匂いと共に! ち、違う! 俺は逃げようだなんて思ってない! 信じてくれぇ! 「む、どうしてそんなに抵抗するの? 傷つけないって言っているのに」 ちげえよ! ちげえからそんなしゅんっとした口調で俺を抱きしめるな! 俺におっぱいを意識させるな! そうするとヤバイんだって! 俺、死ぬんだって! ぐおお、と俺は必死に必死に心頭滅却を始め、背中に押し付けられる魅惑的な感触の一切を、不感として切り捨てる! なるほど確かに、なんて勿体ないんだよって思うだろう! だが違うのだ! 俺かて好きでこんな事をしているわけじゃない! 好きでおっぱいの感触を忘れようとしているのではない! 「ていっと」 不知火は小柄な体格を上手に使って俺を抱えフローリングの上に座らせた。 「次逃げたら、もっと縄の数を増やすんだからね?」 不知火はまたもや俺の前に前かがみになって、滑らかな制服の生地からその大きな胸の形が露わになってそれをこっちに向けてくる。無防備なまでに揺れるそれにちょっと顔を前のめりにするだけでそのまま埋めてしまえる──普段の俺だった感極まって跳び込んでしまうであろうその状況から。俺はとにかく首を縦に振ってふりまくって、その胸から必死に目をそむけようと懸命だった。 その俺のあまりの必死さに満足したのか、とりあえずは不知火は俺から離れて、リビングの探索を再開したようだ。鼻歌まで奏でて楽しそうである。 やべえ……死ぬところだった。 さて、なぜ俺がここまで必死こいていた理由が、分かっただろうか。 ……『とりあえず俺は今、猿轡をされている』。 つまり、だ。 ──鼻血を出した瞬間、息ができなくなって窒息死する── そして言い忘れていたが、俺の性癖についてだ。諸君。 ──俺はおっぱいが大好きだ── いやこれは自明の理だからどうでもいいか。というか全人類はおっぱいが大好きだしな。おっぱい好きな奴に悪い奴いないからな。なんだと、おっぱいは別に好きじゃないとか言うのか前は。おいお前、冷静になって考えろ、お前は大切な事を忘れている。よし質問するぞ。お前、赤ん坊の頃何が一番好きだった? そうだろ、おっぱいだっただろ。 おっぱいの母乳が大好きだったあの頃の純粋なお前を思い出せ。あの頃のお前はいつだって輝いていただろ。そうだよ、全人類は皆おっぱいで育ってきたんだ! 俺たちはおっぱいがいなければ生きていけなかった! おっぱいを崇めよ! おっぱいを奉れよ! 全人類のおっぱいに感謝せよ! すべてのおっぱいに祝福を授けよ! ……話が脱線したな。 つまり、だ。 おっぱい大好き人間であるところの俺は、あいつの胸のふくらみの感触をこの身で全力全開で興奮してしまうと鼻血を出してしまって──死ぬのだ。 俺はおっぱいに殺されるのだ。 なんだよ死因がおっぱいって。親どんな顔して俺の葬式開いたらいいんだよ。そいで多分、クラスの友達も……あー、あいつらはまあさすがに泣い……いや駄目だ、絶対笑う。だって笑うでしょ。『死因:おっぱい』って。絶対俺のひつぎにおっぱいボール詰め込むでしょ。 ってそうじゃねえよ、そういう話をしたいんじゃねえんだよ俺は。 ともかくだ。 エロい事を考えると鼻血が出てしまう、というのは良く聞いた話ではあるが、その真意は定かではない。いや、定かではないにせよ、定かじゃないからこそ、怖い。 マジで興奮して鼻血出してしまったらと考えると。 なので俺は、すっかり美少女観賞会と思ってのんびり構えていた俺は一転、死の淵に立たされてしまったと言う訳である。 やっべえ、やっべえと焦る拘束状態な俺を尻目に、相変わらず不知火は 「うーん、どこにもないなぁ、お宝……」 遠慮なくリビングの備品に手に付けては探し回っている。本棚の本を手にとってはパラパラめくってみたり、ソファーのクッションを手で弄ってみたり。それでは飽き足らず掛け時計の後ろを覗きこんだと思ったら天井の照明のカバーを外して「あ、これもうすぐで切れそうだよ。今週末に電家店に行って交換したほうがいいかもね」ってお前どこまで探すんだよ。「100万円を捜せ!」かよ。懐かしいなおい。 ……そも、不知火は結局一体何者なんで、そいでなんでまた俺の家に侵入してきたんだ? 俺の両親の商売敵だとか、買った商品にケチ付けて上がり込んできたとか、そういう荒くれ者って感じではなさそうだし……。 まてよ、確かこいつは、 『お爺ちゃん、見ててね私の颯爽たるデビュー! お爺ちゃんの名は決して汚さないんだから!』 ……とか言っていたよな。 これまでの言動から察するに、恐らくこいつの大好きな爺ちゃんは「不知火」の先々代。しかもこいつよりも手が長けた大怪盗と見た。 ならば合点がいく。 世界を飛び回る美術商と、夜を駆け抜ける大怪盗。 今スカートをはためかせるこの美少女怪盗と俺の両親との間に、何らかの確執があるということである。 「……ん? どうしたの私の方を見て」 ってうわ! いきなり近づいてくるなよ?! 「ふうむ……これだけ探しても無いってことは……」 ないはずなのに、と不知火はふてくされたように呟く。それですら可愛く思えるとかこいつ魔性のナニかを秘めているのではないだろうか? 「それで、あなたは何か知っているのかしら?」 当然そんなことなど知らない俺はかぶりを振る。そもそも全く知らないのだ。知るはずが無いのだ。 美術の価値を全く見いだせない俺みたいな人間に与える物など、対してあるはずが無いのに。 「いやぁ、それはおかしいな!」 なんだこいつは、まさか俺の心を読んだのか?! 「ならば君の体に隠れているんじゃあないかな?!」 ああよかった読心術までは会得していなかったか良かった俺の暗澹たる想いを聞かなくて…… あれ、今こいつなんて言った? 「と言う訳でぇ!」 突然俺の視界が真上に跳んだかと思うと、腹部辺りに何やら柔らかな弾力が這った。 その感覚はまるで意志を持つように俺の腹部をするりするりと縫っていって……っておい! 「ああ、ちょっと暴れないでよ!」 いや暴れるわバカ野郎! なんでお前、なんでお前、俺の服脱がそうとしてんだよ?!「ふうぬ……妙に汗酸っぱい、材質的にはただの量産品に思えるが」 いやそれユニクロで買ったやつだから! だから俺の汗が染みたそれをかぎまわすんじゃねえ! 俺の服を鼻にくっつけてまで鑑定しようとするんじゃねえ! 「はんはん、ズボンの質も……ちょっと変な匂いがするけれどそこまで特別とは」 いやだからちょっとまて! なんでズボンまで脱がそうとするのですか?! ブチぎれますよ?! 「いやでももう、ここくらいしか捜すところが……」 いやあるだろ?! 少なくとも俺の服装を弄る以外の選択肢はまだ残ってるだろ?! 「ううむ、ならばまさか……」 服装をすりすりとやたら無邪気に触り弄りちらした不知火は、俺に馬乗りになりながら──もちろん無防備な胸を揺らしながら──やめろせめて胸は俺の視界から外せ! ああもうめちゃくちゃいいおっぱいしてんなちくしょおぉ! というか俺に馬乗りになって何にするつもりなんだよ! 拘束された人間を襲うとか畜生道そのものだろ?! てかそれ以上俺の体に胸すり合わせるのやめろ! これ以上すりつけると、俺は……俺は! だからこれ以上俺の体に執着するんじゃ俺、鼻血出して死ぬから── 「まさかあなたの肉体にお宝が埋め込まれているの?」 お前その発想暴力的すぎるだろ?! とか思ってたら不知火は俺の体に手を突っ込み始めて…… 「んぐぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅっぅうぅぅぅぅう!!!!!!!!!!!!!!!!!」 死の恐怖で俺は呻いて必死の抵抗を示した! とにかく俺は動いた! まるで芋虫のように! あっついあっついコンクリートにぬけぬけと這い出てきたミミズのように! 「え、わ、ちょ?!」 さしもの大怪盗の不知火も俺の突然の大暴動に気を慌てたか、ぴゃんっと体を飛び跳ねた──のを機会に俺は即座にうつぶせになる! 胡坐をかいた状態で! ゴツゥ! とかいう不穏な音が額のあたりに聞こえたかもしれんがともかくも俺は目を床に向け不知火からともかくも離れようともがく! ってかなんかやべえ! マジで鼻が変に疼きだした! たすけてぇー! 強盗犯におそわれてまぁーす! 助けてぇ! 誰かぁー! 「な、ど、どうしてそんなに逃げ……」 てるの? と続くだろうがだがしかし不知火の声は中途半端なところで止まり── 「そうか! その逃げ様……やっぱり体の中に隠しているのね!」 「んんゆうううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!(怒)」 すると不知火がそのたわわな胸の弾力を無自覚に俺の背中に押し付けてきた! 持ち上げてひっくり返そうとするのか! 「んんー! んんー! んんんんんんんんんんんんんっっっっ!!!!」 もがく俺! 軋む両手首の縄! そして口を塞ぐ猿轡! 「とぉい! つっかまえたぞ!」 だぁあああああああああああああ!!! 胸の感触が肌にくるううううううううううううう!!!!!!!!!!! 止めろまじで鼻血が出るからぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!! 「……」 あ、あれ? なんか突然おっぱいの感触が無くなったぞ……? 「……無抵抗な人にここまでやるの、ちょっと罪悪感感じてきちゃった」 人を拘束しておいて何をいうか。背中越しを顔だけ振り向いてみると、不知火は腰のくびれに手を当てて一息ついていた。表情にはぼんやりとした躊躇いの色が見える。 「むーん、この家に絶対あるってお爺ちゃんが言ってたんだけどなぁ」 だからそのお爺ちゃんとやらは一体何者なんだよ……。 「どっこいしょ。ふう、あ、冷蔵庫の麦茶頂いちゃうね」 不知火はリビングの椅子に座って(いつの間にか持っていた麦茶入りの)コップを傾け、喉をうるおして一休憩といったところである。 「いやぁ、君はもちろん私のお爺ちゃんの事知っているだろうけどさ」 ……君のご両親にお宝をうばわれちゃってねぇ」 ……あん? 今なんと? 「ああいや、奪ったって言う言い方はあれかもだけれど」 不知火はコップの麦茶を一気に飲み干した。表情はどこか張り詰めた糸のように、神妙たる様相を滲ませている。 「あれはお爺ちゃんの大切な、宝物だった。江戸時代から脈略と受け継いできた、名門『不知火』の名を語る代物の内の一つ。」 で、それを俺の両親が奪った、と? 「もちろん、正当な契約行為の上でだよ。向こうがお金を支払って、ちゃんと契約書まである……不知火の名は、美術商からしてみれば畏怖すべきもの」 怪盗の証とやらを買い取ろうとした俺の両親何考えてんだ。 「あのお宝は、間違いなく今では数億円の価値がある」 へえ、まじですか。ふーん、すごいね。 「ともかくも、この家のどこかに宝があるはず。あれほどのお宝、絶対にどこかにあるにちがいなんだから。だから私はなんとしてでもそれを見つけて、不知火の名を持つ宝を取り戻したくて──」 「ぶふっ」 ……俺は猿轡を嵌めた口で笑ってしまった。 「え……?」 怪訝な顔をするのは不知火。 だって笑うでしょ。 俺みたいな美術の心が分からないガキに、そんな大それたお宝なんて家に置いておく訳ないだろ。 だから両親は俺を置いて海外に出ていったんだよ。 ああそうだよ、俺はラノベとかに出てくる所謂「ご都合がいいほどに両親が家にいない」系の主人公なんだよ、しかも俺はトンデモなことに巻き込まれる程の体質じゃない。 くだらない人間なんだよ。 「あの、ちょっと……?」 ただの、親に見捨てられた子どもなんだよ。 だからこの家を探しても何もでてこねえよ、バーカバーカ。 俺がもし才能があって、両親にみとめられるくらいに頭がよかったら、な。 その……俺の家に、あれだ、うん……豪華でな、すごい品のあるな、素晴らしい美術品がな、あるはずなんだよな、でもな、俺の家な、なんもないからな。 「どうしたの……?」 だからいくら探しても無駄なんだよ、俺みたいな人間が住む家にそんな何億円の価値がある美術品を置いておく訳ないんだよ。 豚に真珠なんだよ。 バーカバーカ。 バーカバーカ! 「なんで泣いているの……?」 っ……泣いてねえし! なくわけねえだ、ぐ、う、う……。 「君がどうして泣いているのか分からないけれど」 はっ! わからねえだろうな! だから、だから、さっさと帰れ! 帰れば―か! 帰れば―かっ……! 「この家には絶対にお宝がある」 だからっあるわけがねえって……! 「あのお宝は──大切な人を守るための、御守りだから」 ……え? 「不知火の名を持つその宝は『不知火の眼光が光っている』を暗示しているの。世の中の美術商が最も恐れる不知火の名を、空間に飾りつけるということは、逆説的に『不知火の名の元にある宝を奪うことは、不知火に反旗を翻す』ということ」 つまり、と不知火は不敵に笑う。 「この不知火の目が光る元の前では、一切の強盗は許されない」 ……なんだ、どういうことだ。話がかみ合わん。 「なんだ、わからないって顔をしているねえ。いいかい、不知火は世界の美術商にとって最大の敵にして、美術品を付け狙う怪盗たちにとって最大の権威者。君の両親はその不知火の名を持つ宝を買うことによって、疑似的に『不知火の看板を貰い受けた』のだよ」 不知火は自慢たっぷりに長髪を手で掻き上げ俺に語っている。 「何が何でも絶対に守りたい宝の近くに、不知火の名を飾る。するとどうだろう、その宝を狙う怪盗たちは不知火の名に怯え退散する。誰だって、世界最強の大怪盗こと不知火を敵に回したくないからね」 と、不知火はビシッと俺を指さす。 自らの推論が確固たる真実として疑わない、眩いほどの瞳で。 「君の両親が絶対に守りたいもの。それは、どんな高級な美術品でも、どんな古代のお宝でもない。たった一人の息子……つまり君であるんだよ!」 ……じゃあ、なんだ、あれか、俺の両親は何億もの金を払ってまで、強盗犯から俺を守りたかったって言うのか。 こんなアンポンタンな俺を。 「いいかい。お宝っていうのはね、形じゃあないんだよ。愛情なんだよ。人間が愛するから、それはお宝になるの」 俺なんか、俺なんか守っても、一銭の価値も利益も、ないのに……? 「私はね、あなたの両親が不知火の宝を買い取ったってことを知った時、真っ先に思ったね……そのお宝は、間違いなくその子どもが住む家にあるに違いない! って」 ……そんなわけ、そんな、わけ、が…… 「だから私はそれを証明してみせる! あなたの家には絶対に、不知火の名を持つお宝があると! 全世界の美術商が望んでやまない最高の御守りが、この家に!」 ……俺の両親が、俺を守る、守るために……。 両親は、俺に愛情をもってくれているのか、こんな、こんな、こんなっ……! ……そもそもそうだったんだ。一人暮らしの家にそんな大それた美術品なんて置いておくわけがないって。 もし置いてあったら、今頃世界中の強盗犯が俺の家に押しかけて美術品を盗みだすだろうし、あわよくば俺を殺す、ことだって…… 両親はそれを分かっていたから、俺の家にお宝を置いておかないで、 代わりに、 俺を守ってくれる、何億円もの価値がある不知火の宝を飾っていたんだ…… 「……ぐぶっ!?」 ぐ、ぐはぁ! だ、だ、だぁちくしょう?! 涙で、涙で、ああ、ああ、も、もう! もう、泣いて、は、は、鼻水が……! 「えわちょっと、大変大変!」 不知火は俺の異変に気が付いたのか、慌てて俺に近寄ってきた。 ……まさか泣いて鼻水が出てきたことで窒息するとは、思わなかった。 死因:両親の愛情、か、まあ、おっぱいよりかはマシ、なの、だろう…… とか思っていると不知火は窒息状態の俺の猿轡をぱぱっと解いた。あれほどもがいても取れなかった猿轡があっけなく、あっけなく解いていく。 うえ、と口に含まれた布を吐き出す。 久しぶりに口にする空気。はあはあ、と鼻水だらけの鼻をすする。 あーくそ、高校生になってギャン泣きするとか……くそ、クソ……恥ずかしい。 「ってあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「うるせえ!!!!!!!!!!!」 なんだよ急に叫ぶなよ不知火! びっくりするだろうが! 「あったよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「何が!!!!!!!!!!!!!」 「不知火の、お宝!」 「………………………………………………………はい?」 と不知火が俺の唾液でずぶぬれになった布を手でわし掴みにして、あまつさえそれを愛情すら込めるように手に握りしめて俺に見せつける。 布……のそれは確かに、不知火、の文字が英明と刺しゅうされている。 あの布、どこかで……? 「リビングのテーブルにあったテーブルクロス! まさかこんなところに不知火の宝が……!」 「ちょっとまて、どういう意味だ?!」 「どういう意味も、君が目を覚ました時に咄嗟に手に取った布で、私は君に猿轡をしたんだよ! 咄嗟に近くにあった布を手にしたから、ちゃんと布をみていなかった……! なんという不覚……でも見つかったからよし!」 と不知火は俺の唾液まみれの布を両手で抱きしめてめちゃくそ喜んでいる。 ……よかったね。 よかったよ、本当に。 「ね? どうでしょう、私の怪盗術!」 そう言って不知火は俺の唾液が滴るそれをぎゅうっと手で握り締める。手から絞り出された唾液が、不知火の膨らんだ胸を、健康的な太股を、伝っていく。 俺の体液が、次々と、無防備な不知火の体を伝っていく。 まるで俺が、不知火の体を貪っていくように。 「……あ」 鼻血。 鼻血が垂れた。 お母さん、お父さん。 お元気ですか、僕は元気です。 不知火のお宝、ありがとうございます。 あの訳のわからん女の子はそのお宝を見つけたことで満足なのか、それを置いて行って返りました。 両親の愛情を再確認できて、今回はとてもうれしかったです。 僕を産んでくれてありがとうございます。 追伸 僕はどうやら新しい性癖に芽生えたようです。 |
テレグノシス LlYdIOOVls 2016年08月28日 22時26分51秒 公開 ■この作品の著作権は テレグノシス LlYdIOOVls さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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